平野啓一郎 「本心」 連載第203回 第八章 新しい友達

西日本新聞 文化面

「藤原さんとつきあってたんだと思う。不倫になるのかな、一応。」

 それは、僕の想像と矛盾しないはずだったが、いざそう告げられると、すんなりとは信じられなかった。推測というのは、一人で抱えている時には、それなりの真実らしい重みを備えていても、二人で持ってみた途端、中身がまるで詰まっていないかのように軽く感じられ、不安にさせられるものだった。

「本当に、そこまでの関係だったんでしょうか?」

「曖昧でしょう、そういうのって、大体。」

「僕は、出来れば、藤原さんに会ってこようと思ってるんです。」

「うん、……難しいかもしれないけど、もし会ってもらえるなら、スッキリするかもね。」

「何て言えば会ってもらえるのか、悩んでるんです。」

「どうかな。……やっぱり、最初は一読者として、朔也(さくや)君の感想をしっかり書くのが良いんじゃない? それを喜ばない作家はいないと思う。で、後半に実は、母がファンで、少し前に亡くなりましたって書いたらどう? もし、藤原さんが、お母さんとの関係を、今も大事にしてるなら、きっと、そこからやりとりが始まると思う。返事がないなら、そもそも、その程度の関係だったんだろうし。ご高齢だから、お元気なのかどうかもわからないけど。」

 僕は、三好の助言を的確だと感じ、『波濤(はとう)』と『ダイモーン』について、感じたままを書き、最後に母のことに控え目に触れた。

 「会いたい」という希望を伝えるかどうかは、返事次第で考えることにした。

      *

  クリスマス・イヴのイフィーの家でのパーティーは、僕たちにとって、思いがけないものだった。――そう書いてみて、僕はこの言葉が、後にはもっと重要な意味を持ってしまったことに気がつく。

 僕はただ単純に、当日、彼の家のリヴィングに足を踏み入れた際の驚きのことを言ったつもりだったが。……

 僕の人生は、彼にあのコンビニでの動画を発見されたことで変わった。

平野氏のメッセージ

私たちの生を、さながら肯定する思想を考え続けています。主人公は、愛する母親を亡くしたあと、仮想現実によって再現された母親と生活することになります。その過程で見えてくる母の本心と、自分の心の変化が主題です。乞うご期待!

平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)プロフィール

 1975年、愛知県蒲郡市生まれ、北九州市育ち。東京都在住。京都大在学中の99年、デビュー作「日蝕」で芥川賞。「ある男」(読売文学賞)など。「マチネの終わりに」(渡辺淳一文学賞)は福山雅治さん、石田ゆり子さん共演で映画化された。

マチネの終わりにの公式サイト

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