「自分の世界が広がった」車いすの22歳、障害者の支え手に

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 誰もが、誰かを支えられる-。障害など配慮が必要な人の学生生活を当事者同士で支え合う九州大のピア・サポーター(PS)活動を4年間続け、今春卒業した坂井法仁(のりひと)さん(22)=福岡市。生まれつき手足がなく、電動車いすで動き回りながら、障害者を支援する知識やスキルを広めたり、啓発に努めたり。指導的な役割を果たした実績を評価され、同大からリーダーとしての認定も受けた。困り事や必要な支援は、たとえ障害の種類が同じでも人それぞれ。「活動を通して学び、自分の世界が広がったのが、何より大きいです」。大学院に進学し、今後も活動を続けていく。

 3月23日、卒業式を終えた九大伊都キャンパス・椎木講堂の一室。両袖の短い特注のスーツを着た坂井さんはやや緊張した顔で、久保千春総長からリーダー認定書を受け取った。

当事者目線で提案

 市内の中高一貫校から2016年、理学部に入学。電動車いすを左脚先のコントローラーで自由に操り、一人で電車やバスを乗り継ぎ、伊都キャンパスまで通学する。学内では大学側の支援員らから、食事などの介助を受けてきた。

 PS活動に参加したのは、受験に合格してすぐ、キャンパス内のバリアフリーマップを作製中だったメンバーから、アドバイスを求められたのがきっかけ。

 原案には、人工的なスロープと、普通の坂道が色で区別されていたものの「車いす利用者にとってはあまり違いがない。それより緩やかなのか急なのか、傾斜の違いを色分けしてもらえれば助かります」…。一緒に学内や周辺を歩き、さまざまな提案をした。

 九大のPS活動は、障害者差別解消法制定を背景に14年からスタート。障害などで配慮が必要な学生に「機会の平等」を保障するため、合理的配慮の提供が大学側に義務付けられている。学生自らが当事者目線で支援を考える活動は、坂井さんにとっても新鮮だった。大学からの誘いもあり、参加を決めた。

同じ障害に個人差

 活動を指導するインクルージョン支援推進室によると、実働メンバーは毎年二十数人で、障害があるなど配慮が必要な学生も4分の1程度いる。坂井さんは「支援する側」としての活動に積極的だった。

 車いすを利用する学生の移動支援を学ぶメンバー向けの研修会では、自ら練習台に。こうした研修では、手動の車いすを後ろから押す方法などにとどまりがちだが「電動車いすは重心が左右非対称で、車体によってブレーキやコントローラーの位置が違う」。車いすによって配慮に違いが出てくることを、電動車いすの後輩たちと伝えていった。

 ろう者の教員らとの出会いをきっかけに、手話も学ぶ。最初は、車いすに取り付けたスマートフォンの画面を、口にくわえたペンでタッチして文字を打つ筆談でコミュニケーションしていたものの「読み書き自体が苦手な聴覚障害者も少なくない」と知った。

 メンバーが手話通訳の技術を身に付ければ、授業や学内行事で、聴覚障害者に情報を「保障」できる-。そう考え、自ら発案して手話講座を立ち上げた。手話通訳士を招き、今も定期的に開催している。

 手話サークルにも所属する坂井さん。「相手の手話をカメラで読み取ったり、こちらの発語は手話の立体画像で映したり、そんな機械翻訳を、大学院で研究してみたい」と意欲を語る。

「環境づくり大事」

 一般の学生や教職員向けにポスターを作ったり、中高生や他学生と交流したり。啓発活動にも携わった坂井さんは「障害者の困り事やバリアー(障壁)を発見できるようになってほしい」と常々、訴えてきた。

 半面、気になるのは「障害のある本人が遠慮して、なかなか声を上げたがらない」現状だ。自身も高校生までは、周りの空気を読み「自力で何とかする」のが“普通”だった。

 「思いやりだけではどうしても支援の質が伴わないし、見えにくい障害もある。必要な配慮を訴えやすい環境づくりや教育も今後は大事になってくるのでは」

 ただ支援を受ける側だと認識されがちな障害者も、時には支える側に回る。PS活動のような「対等」な関係が世に広まれば、こうした「心のバリアー」もなくなっていくだろう。(編集委員・三宅大介)

九州大障害者支援ピア・サポーター(PS) 障害の有無や特性にかかわらず誰もが豊かな学生生活を享受できるよう、授業や学内行事などでさまざまな支援をする学生たち。聴覚障害の学生のために講義をパソコンで文字に起こしたり、車いす利用者の移動支援をしたりする直接支援のほか、会員制交流サイト(SNS)などによる啓発なども行う。活動に積極的に参加し、障害者支援に関する必要な授業科目もすべて受講するなどの要件を満たした学生はリーダーとして認定している。2019年度までの認定者は計2人。

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