住宅街を歩いているとカレーの匂いが漂ってきた…

西日本新聞 社会面 佐々木 直樹

 住宅街を歩いているとカレーの匂いが漂ってきた。「泣きたくなったらカレーを作るの」。東日本大震災半年後の岩手で取材したシングルマザーの言葉を思い出した。仮設住宅の台所でこちらに背を向けて、インスタントコーヒーを入れながら漏らした一言が今も脳裏に刻まれている。

 女性は津波で家と仕事場を失った。当時30歳。ふとした瞬間に不安になり、泣きたくなると語っていた。避難所では周囲を気にして耐えた。狭い仮設住宅に移ってからは一人息子に気付かれまいと、息子の好物のカレーを作って、こぼれる涙をタマネギのせいにしたのだという。

 東北の地震から9年が過ぎ、熊本地震から間もなく4年となる。日常を取り戻しつつあるようにも見える。個々の暮らしに戻った分、地震のせいで抱えた悩みに苦しむ姿は見えづらい。だから気になる。今もタマネギのせいにして泣いている人はいないだろうか。 (佐々木直樹)

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