ビジョン作りの鍵は「教員間の信頼と対話」 異年齢学級実践者が提言

西日本新聞 くらし面 四宮 淳平

 従来の画一的な一斉授業を基本とした学校に対し、それぞれの子どもの発達を重視する「オルタナティブ(もう一つの)教育」と呼ばれる教育理念が注目されている。異年齢の子どもたちが一つの教室で共に学ぶ「イエナプラン教育」もその一つだ。イエナプラン教育が浸透するオランダに暮らし、日本にこの教育を伝えてきたリヒテルズ直子さん(65)が福岡市で講演し、日本の教育の課題と求められる方向性を提言した。

 教師の声を聞き逃さないよう一様に背筋を伸ばして前を向く子どもたち。教師が板書すると一斉に、丁寧にノートに書き写す-。日本でよく見る学校の授業風景。子どもは受け身で、主体的に関わる余地はない。

 着席時の足の置き場が床に描かれているケースもあるという。リヒテルズさんはそうした雰囲気やルールを紹介し、「究極の非人間的教育」と話した。

 同年齢の子どもを集めた教室で同じ内容を教える近代教育は、18世紀の産業革命の影響により始まった。日本では明治維新以後、それを西洋教育の一つの型として公教育の中に模倣してきた。近代化が遅れた日本が産業化を推進するために、学校現場では規格品のような労働力が重視された。

 「一人一人違う子どもたちを“真四角”に押し込め、工場でネジを回せるよう育てた」とリヒテルズさん。この「伝統」は、今も日本の公教育の底流に色濃く残っているという。

 一方で技術の進歩や人工知能(AI)の急速な発展などにより学校の役割は変化。産業化のマンパワー育成よりも、コミュニケーション能力や独創性、主体性、批判的思考力を持つ市民の育成こそが求められていることを強調する。

 では、そうした人材の育成に学校はどうあるべきなのか。リヒテルズさんは、教職員が未来社会に向けたビジョンを共有し、自らの行動や態度を見直して変えていく必要があるという。

 「ビジョンは、そこにいる当事者が自ら生み出してこそ意味がある」。オランダやデンマーク、あるいは国内で実践されている手法をまねるだけでは「これはやっぱり合わない、じゃあ次となりかねない」。

 「いいチームを組んでミッション(使命)を話し合うとビジョンが出てくる。それが固まっていれば、戦略はおのずと見えてくる」と言う。この考え方をイエナプラン教育では「オープン・モデル」と呼んでいる=イラスト参照。戦術や戦略が機能していなければ、一つ下の段階に降りてビジョンやミッションを見直すことで修正の方向性が見え、合意が可能とする。

 重要なのは「日常的に教員が自由に批判的に考えること」。教育委員会や校長が決めた規則に従うだけでは、教員自身が納得できる子どもへの関わりはできないとも指摘する。

 ただ、長年の慣習や一斉行動を重視する学校で、業務が山積し、多忙な教員に大きな変革を期待するのは容易ではない。

 リヒテルズさんは具体的手法の一つとして、生徒にも教員にも、情報をそれぞれに共有できる「意見箱」の設置を紹介する。意見は仲間を褒め、気になることを問い、こうあってほしいという願望の3点に限定。内容は毎週みんなで車座になって話し合う。

 ポイントは願望だ。騒がしい状況に対して「うるさい」ではなく「もっと静かになったらいいのに」と書いてもらうなど日常の不満も置き換えるようにする。「苦情を述べるだけではなく、願望にすることでその社会のあり方に責任を持つようになる」と説明する。

 一律の決まり事を厳格に適用する教育をやめたとき「荒れ」を懸念する教員は少なくない。

 リヒテルズさんは「子どもたちは元来、静かで落ち着いた場を望むもの。子どもたち自身に、そうした場に対する主体的な責任を自覚させることが大切」と訴えた上で付け加えた。「そのためには教員のチーム自体が、互いに信頼関係にある人々で成り立っていることが重要です」 (四宮淳平)

■ドイツ発祥、オランダで浸透 子ども自身の「問い」重視

 イエナプランは、ドイツ生まれオランダ育ちの教育といわれる。ドイツ人の教育哲学者ペーター・ペーターゼン(1884~1952)が1920年代に提唱し実践。第2次世界大戦などの影響で同国では浸透しなかったが、70年代に入り画一教育のために落ちこぼれる生徒が増えていたオランダで、子どもの発達状態や学び方の多様性に適した学校教育への転換が図られ、広く導入されていった。オランダ国内では現在、公私立合わせて220校ほどが採用している。

 実践校での基本活動は「対話」「遊び」「仕事」「催し」の四つ。子ども同士の対話は頻繁に行われ、仕事には、自分の課題を自ら立てた時間割に沿って達成していく個別の学びと、グループの協働で実施するものがある。遊びは体を動かす感情表現や演劇作りなど、催しは学校行事やメンバーの誕生会などで、各自が考えながら役割分担する。特に身近な素材や環境をテーマに、子ども自身の「問い」を出発点とした自発的な探究学習に重きを置く。

 1学級は3学年にわたる異年齢の子ども35人ほどで構成。教師は知識やスキルの伝達役というより、子どもの求めに応じた助言や快適で安心できる学びの環境づくりに徹するという。

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