15人と90匹の猫の島で“一斉手術” このままでは…住民の決断

西日本新聞 押川 知美

密着・猫の島の一斉手術(上)

 大分県佐伯市の沖合にある「深島」は、住民15人に対して約100匹の猫が暮らす“猫の島”として知られる。今、島では、猫の世話をしてきた住民の高齢化が進んでいる。人口減に反比例して増え続ける猫-。将来のために住民が決断したのが、猫の一斉避妊去勢手術だった。手術に臨んだ人と猫の3日間に密着した。(押川知美)

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 深島へは、養殖ブリで知られる大分県佐伯市蒲江の漁港から定期船で約30分。日向灘に浮かぶ、周囲4キロの小さな島だ。戦後、多い時には200人ほどが暮らしていたが、現在は15人。うち10人が65歳以上で、多くが漁業や年金で生活している。

 島中を自由に歩き回る猫たちの世話は、島民の有志が無償で行う。年金や、島を訪れた人の寄付から餌代を捻出し、決めた場所で1日2、3回与える。数年前に「猫の島」としてテレビ番組で取り上げられて脚光を浴びたが、生活のリズムは変わらない。

 しかし「あと数年たてば猫の世話をできる人が足りず、増え続ける猫を不幸にするかも」。島唯一の民宿を営む安部あづみさん(31)は不安を口にする。他の住民も思いは同じだった。

 住民が一斉手術を決断するきっかけは2019年1月、島の猫が感染症とみられる病で相次ぎ死んだことだった。明確な死因が分からないまま、3カ月間で約200匹から約80匹にまで減少。猫が多過ぎて管理が十分にできない。どうすれば-。公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市)に相談した。

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 どうぶつ基金は、犬や猫の殺処分を減らすために1988年に設立。捕獲(Trap)▽不妊手術(Neuter)▽元の場所に戻す(Return)-の頭文字「TNR」の活動に取り組んでいる。手術済みの印として、耳にV字形の切り込みを入れる。

 基金の佐上邦久理事長は「繁殖を防ぎ、住民が見守る『地域猫』として一代限りの命を全うさせることで、苦情や殺処分の回避につながる」と説明する。

 基金がこれまでに施術した猫は2万匹。実施数は8年前から2・5倍に増えた。

 飼い主がペットを最期まで適切に飼育することを義務付けた2013年9月の改正動物愛護法の施行で、自治体は高齢や病気を理由にした引き取りを拒否できるようになった。猫の殺処分数は年々減少しているが、譲渡先が見つからず殺処分に至る子猫はなお多い。「人口減少と高齢化が進む日本で、猫だけが増え続ける事態はどこでも起こりうる」。深島の状況は深刻と判断した基金は、無償での手術に踏み切った。

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 昨年11月5日、どうぶつ基金のメンバーや活動に協力する獣医師ら7人が、島に入った。いよいよ、TNRの開始だ。

 日程は3日間。初日は島内のすべての猫を捕獲し、翌日に1匹ずつ不妊手術を実施。経過を一晩見て、3日目に島へ放す-という計画だ。

 佐伯市内や福岡、宮崎両県からの動物愛護ボランティア約30人が集まり、捕獲作業を手伝った。獣医師の山口武雄さんが捕獲した猫たちを診る。「毛並みも良くシラミも少ない。病気や痩せ過ぎで手術できない猫もおらず、しっかり世話されている」

 現在、深島にいる猫は推定90匹。警戒心の強い猫もおり、すべて捕獲するのは容易ではない。「一匹でも残るとまたすぐに増えて意味がない。100パーセント捕獲して手術することが重要」と佐上理事長。海岸や山の近くなど島の至る所に、ケージに食べ物を入れた捕獲器を仕掛けていった。

密着・猫の島の一斉手術(下)はこちら

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