滋賀再審無罪 司法の病理直視し改革を

西日本新聞 オピニオン面

 そもそも患者の死亡に事件性があったのか、それすら疑わしい。警察や検察が見込み捜査で看護助手だった西山美香さんを殺人犯と決めつけ、裁判所もそれを追認してしまった-。

 判決の要旨はこうだった。極めて重い結論である。謝罪や補償だけでは済まされない。刑事司法制度の在り方を真剣に見つめ直す契機とすべきだ。

 2003年に滋賀県の病院で患者の人工呼吸器の管を外して窒息死させたとして、殺人罪で服役した西山さんの再審で、大津地裁(大西直樹裁判長)は無罪判決を言い渡した。検察側は上訴権を放棄し、冤罪(えんざい)であることが確定した。20代で殺人犯の汚名を着せられ、40歳になる現在まで、西山さんが失った日々の重さ、背負った苦しみの深さは察するに余りある。

 深刻なのは、今回の再審でも「自白の誘導」や「証拠隠し」があぶり出されたことだ。西山さんは捜査段階で自白し、それが有罪の決め手とされた。しかし、西山さんは軽度の知的障害で話す相手に迎合する傾向があり、供述は目まぐるしく変遷していた。患者の死因も他殺とは限らないとの医師の所見を示す捜査報告書が存在していた。

 再審判決は、取り調べた警察官が西山さんの特性や自身に対する恋愛感情を利用して、長時間の聴取を重ね「供述をコントロールした」と自白の信用性を明確に否定した。死因も不整脈などによる自然死の可能性があるとし、「患者が何者かに殺害されたという事件性すら証明されていない」と断じた。

 こうした捜査の不当性は、有罪を導いた裁判では見逃され、再審開始後に検察から開示された調書類で浮かび上がった。裁判官の訴訟指揮にも問題があったとみるべきだ。大西裁判長は西山さんへの判決言い渡しの際「刑事司法に携わる全ての関係者が自分のことと受け止め、改善に取り組む必要がある」と付言した。これも異例のことだ。

 警察、検察、裁判所の三者は今回の「事件」を徹底検証して問題点を洗い出し、刑事司法の改革に取り組むべきだ。取り調べの録音、録画に加え、知的障害者の聴取は弁護人の付き添いを義務化するなど、捜査の可視化を一段と進める必要がある。証拠開示のルールなどがなく、裁判官の裁量任せとなっている再審の在り方も見直すべきだ。

 殺人など重大事件での再審無罪確定は、熊本県の「松橋(まつばせ)事件」を含め、00年以降だけで6件目となる。鹿児島県の「大崎事件」で先週、4度目の再審請求が行われるなど、冤罪を訴える動きは絶えない。司法の病理を司法自らが直視する姿勢を強く求めたい。

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