小さな離島で“民泊”記者が体験 「行ってきます」たった1時間で…

西日本新聞 もっと九州面

 五島列島の北部に位置する長崎県小値賀(おぢか)町。人口約2300人の小さな離島の自治体だが、自然や農漁業を生かした「体験型観光」に魅せられ年間2万人超の観光客が訪れる。その多くが島内21軒の民家が営む「民泊」を利用する。記者も1泊2日で体験した。

 2月上旬。佐世保市の港からフェリーで約3時間で小値賀島に到着した。ターミナルで待ってくれていたのはNPO法人「おぢかアイランドツーリズム」のスタッフ。私のようにこの島を訪れ、とりこになった島外出身者が中心。レジャー施設やホテルがなく「何もない」と嘆く島民を、「青々とした海、温かい心がある」と鼓舞して体験型観光を推進している。

 お世話になる山田泰弘さん(77)に引き合わせてくれた。車で港から5分ほどで妻の恵子さん(72)が待つ木造2階建ての自宅へ。満面の笑みで「遠いところからよく来たねえ!」。

 ん? 遠いところへではなく?

 畳の部屋で、島特産のサツマイモで作った「かんころもち」を頬張りながら夫婦の生い立ちを聞くうちに、合点がいった。

 2人は生まれも育ちも小値賀。泰弘さんは大阪で働いた後に帰郷して農協に勤めた。一方、恵子さんはほとんど島から出たことがなく、人生の大半をこの島で過ごしてきた。ここが拠点だ。

 泰弘さんの定年をきっかけに始めた民泊では、全国の観光客や修学旅行生を受け入れる。8千キロ以上離れたリトアニアからの訪問者は島に移住した。2人の温かい人柄を慕って多くの人が訪れる。

    ◇    ◇

 「行ってきます」

 家に着いてたった1時間で、気持ちはすっかり家族になっていた。玄関口で声を上げて泰弘さんと魚釣りに出掛けた。

 潮の香りがする。目の前に広がるのは海と島々。「これが魅力よね」。悦に入っている間に、手際よく準備をしてくれていた。釣り糸を垂らす。狙いはアジだ。20分が経過した、が、さおはピクリともしない。通り掛かった近所の男性の助言で数メートル移動すると、グイグイと引き始めた。15~20センチのアジが計14匹。泰弘さんもほっとした様子だ。

 家に戻ると恵子さんが夕飯を作っていた。「手伝えることある?」と尋ねると、「天ぷらを揚げてくれる?」と返ってきた。本当に家族みたいだ。

 メインを飾るのは小値賀の祝いの席で食べる押しずし。シイタケ、かつお節などを混ぜた具を酢飯に挟んで押し、黄色の錦糸卵をのせる。私が釣ったアジの刺し身、家庭菜園でとれたカボチャの天ぷらなど盛りだくさんだ。

 小値賀の民泊の特徴は、家の人と食卓を囲むこと。旅人を客ではなく家族として迎え入れる。恵子さんは「一緒に食べて話すことが楽しい」と笑った。

    ◇    ◇

 隣に住む小学生の孫2人が遊びに来た。小値賀は小中高一貫教育で小中学生は同じ校舎で学んでいるそうだ。海が荒れて船が出ない日は防災行政無線を通じて連絡があること、島に鮮魚店はなく早朝から開いている魚市場で買うこと、信号機は一つしかないこと…知らないことばかりで遅くまで話し込んだ。

 翌朝、悪天のため急きょ始発の船で帰ることになった。「また来ればいいけん、気を付けて帰るんよ」と声を掛けてもらい、「小値賀焼」のペンダントを頂いた。海底火山の噴火でできた島の赤土で焼いたものだ。鉄分が多い。釉薬(ゆうやく)が塗られた表側は海と同じ鮮やかな青。小値賀の大地の一部を渡されたようだった。

 ペンダントを首にかけ、島を後にした。「また戻ってこよう」。島が大好きな恵子さんの気持ちにも、少し触れた気がした。

(坪井映里香)

 民泊ができるのは21軒。1泊2食付きで1人1万2000円、2人以上だと1人9000円(いずれも税抜き)。4歳未満は無料。築100年超の古民家を貸し切って宿泊する「古民家ステイ」も人気。2週間前までに予約が必要。おぢかアイランドツーリズム=0959(56)2646。

 ※小値賀島での民泊は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月30日(木)まで受け付けを停止しています。

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