統一か同盟か…堂々巡り 米朝の狭間で揺れる人々

西日本新聞 国際面 池田 郷

韓国葛藤 光州事件40年(3)

 「キム君」と題する韓国映画が昨年5月に封切られた。1980年5月、韓国光州市で起きた民主化を求めるデモを戒厳軍が鎮圧した光州事件を題材にしたドキュメンタリーだ。 

 主人公のキム君は軍に対抗して武装した「市民軍」に参加した無名の青年。事件後、一部保守派が写真などを基に「北朝鮮が送り込んだ特殊部隊員」と主張した。映画では当時を知る人々の証言などを積み重ねて「地元の孤児たちのリーダーだった」との人物像を浮かび上がらせ、「特殊部隊員」説の矛盾を突いた。 

 当時の軍事独裁政権は事件を「北朝鮮の策謀」と断定し、戒厳軍による市民への無差別発砲を正当化した。40年を経た今も保守系の論客や政治家が北朝鮮の関与を唱え、遺族や革新勢力がそれを否定して反発する事態が繰り返される。 

 北朝鮮とどう向き合うか。韓国社会を二分する保革の葛藤は国の根幹に関わる路線対立に行き着く。 

脱北者は目玉候補 

 「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は非核化なんてするつもりはない。文在寅(ムン・ジェイン)政権の融和政策は間違いだ」。15日投開票の総選挙に立候補した元駐英北朝鮮公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏(57)は3日、ソウルの遊説先でこう語った。 

 16年に脱北した太氏は保守系最大野党の目玉候補だ。「金王朝」の圧政から逃れた脱北者の存在は国民に北朝鮮への嫌悪感を植え付ける。高齢の保守支持層には朝鮮戦争(1950~53年)で戦火を交えた北朝鮮を「脅威」として捉える意識が強く、米国や日本との安全保障協力を重視する。 

 太氏の擁立には、文政権が南北関係を重視するあまり脱北者支援に及び腰だとアピールする野党側の狙いもある。 

 昨年7月、ソウルのアパートで脱北者の母(42)と次男(6)の遺体が見つかった。料金滞納で水道が止められ、冷蔵庫はほぼ空だった。警察は餓死の可能性があるとの見方を示した。 

 太氏は出馬会見で「(文政権の)担当相や公職者は誰も(母子を)助けるため何をすべきだったのか言及すらしない」と批判した。 

強まる民族主義色 

 「在韓米軍への深い失望が反米意識につながった」。光州事件当時、地元の大学生だった韓尚錫(ハン・サンソク)さん(64)はデモに参加した学生たちの心情をこう代弁する。 

 戒厳軍の攻撃が激化する中、学生らは韓国軍の指揮権を握る在韓米軍が事態収拾に動くことを期待した。だが、米軍は沈黙した。東西冷戦下、米軍にとって韓国は「反共のとりで」であり、韓国軍はそれを死守する運命共同体だった。 

 学生らに膨らんだ反米感情は同時に、北朝鮮への同胞意識と南北統一を旗印とする民族主義を強めた。日本の植民地支配に抵抗した1919年の「三・一独立運動」から、光州事件など87年の民主化実現に至る軍事独裁政権との抗争-。その歩みを一連の流れとして捉え、民族の新たな“正史”とすることが革新支持層の悲願となった。 

 米朝の非核化交渉が行き詰まる中、文大統領は今年の年頭記者会見で力説した。「朝米対話を見守るだけでなく、南北間でできる最大限の協力を進める必要がある」。非核化の先に見据える民族統一への執念と、米国への期待といらだち。米朝の狭間(はざま)で揺れる胸中が文氏の言葉に強くにじむ。

(ソウル池田郷)

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