「大丈夫、影のない人は光を理解できない」自分を楽にするための疑似体験

西日本新聞

 本書は、韓国で200冊限定のブックファンドから始まり40万部を超えるベストセラーになったという話題の本。近年K-文学やK-BOOKと呼ばれる主に共感を軸にした韓国の書籍が、日本の若い世代を中心に支持を集めている。その最新とも言える一冊だ。
 
 著者は、「気分変調症(軽度のうつ病)」と「不安障害」に悩み、精神科で相談治療と薬物治療を受けている出版社勤務の若い女性。本書は精神科医とのカウンセリングの内容をそのまま書き起こした、言わば対話記録のような形式になっている。

 カウンセリングでは、会話から深層心理を引き出すことに重点が置かれる。過去の家庭環境、家族それぞれとの関係、学生時代の挫折や努力、現在の対人関係の悩みなど、著者を取り巻く状況をひとつひとつ紐(ひも)解きながら、考え方の歪(ゆが)みをあぶり出し、気付きを促していく。

 すると徐々に、著者の問題の多くは自己肯定感の低さが原因であることが分かってくる。自己評価が低いがために、他人に評価してもらうことでしか満足感を得られないのだ。そのため自分を卑下し、しかし他人から軽く見られることには耐えられない。そして、頭では多様性を認めながらも白黒を付けたがり、グレーを受け入れられない。ひとりでいることが好きだが、それは誰か愛してくれる人が存在しているという条件付きで成立している・・・というような数々の矛盾。そこから苦しみが生まれる。

 読者がもし同じような悩みを抱えているとしたら、自分と置き換えることで自らカウンセリングを受けているような感覚になるだろう。しかしそれは決して楽しいものではなく、辛く苦しいことかもしれない。逃れられない憂鬱さにもがいている著者に共感できればできるほど、読者も自分自身の中にある闇を見つめることになる。

 ただ、自分が抱いていた生きづらさや説明できない思いを文字として見ることは、自分を客観的に見つめる手助けになる。感情を整理して受け入れる、それだけでも一歩前に進むことができるはずだ。本書の売れ方は、超格差社会と言われる韓国で、救いを求める若者がいかに多いかを表している。しかしそれは韓国だけのことではなくて、日本でもきっと同様だろう。

 巻末には付録散文集があり、著者の内面がより露わになる。特に、自分の家族など身の回りのことを通しての随筆は出色。「私の叔母」など、胸に迫るものがある。

 

出版社:光文社
書名:死にたいけどトッポッキは食べたい
著者名:ペク・セヒ 山口ミル:訳
定価(税込):1,540円
税別価格:1,400円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334951375

西日本新聞 読書案内編集部

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