裏切りの「進歩既得権」 次世代と価値観の摩擦

西日本新聞 国際面

韓国葛藤 光州事件40年(4)

 世界的人気の韓国男性グループ「BTS(防弾少年団)」に、メンバーがそれぞれの故郷に思いを寄せて歌うラップ曲がある。「Ma City」。韓国光州市出身のJ-HOPEさん(26)は、1980年5月に蜂起した市民を軍が弾圧した「光州事件」を歌う。

 ≪俺(の生まれ)は全羅南道光州/俺の人生は熱い南の熱気/みんな押せ062-518≫

 歌詞の「062」は光州市の市外局番。「518」は「5・18民主化運動(光州事件)」の略称だ。

 市内の中学生、李ナヨンさん(14)は「BTSが光州と5・18のことを歌ってくれるのは市民の誇り」と話す。地元の小中学生は毎年5月、事件の犠牲者を追悼する式典などを通じて韓国の民主化の歩みを学ぶ。

 事件から40年。革新系の文在寅(ムンジェイン)政権は政府を挙げて事件の責任追及や「5・18精神」の継承に力を注ぐ。一方で、韓国社会では文政権の中核を担う民主化運動世代と次世代との価値観の摩擦も生じている。

大義か政治利用か

 2018年2月、平昌冬季五輪。文政権が北朝鮮に働きかけ、女子アイスホッケーの南北合同チームが結成されると、韓国の20~30代が猛反発した。

 民主化運動世代にとって南北統一は「民族の大義」。だが若い世代には「政治利用」と映った。北朝鮮選手の合流により出場を逃す韓国人選手が出たことに「ひどい」などの声が殺到して会員制交流サイト(SNS)が炎上。大統領府ホームページにも反対の書き込みが約6万件寄せられた。

 かといって多くの若者が、北朝鮮を国防上の脅威と強調する保守の論理に同調しているわけではない。当時の世論調査では南北合同の入場行進に5割超が賛成した。「南北統一の思いには賛同するが、選手への不公正は許されない」。ソウルの男性会社員(27)は同世代の思いを代弁する。

 「個人の尊重」「公正」「自由」。それが韓国の20~30代の価値観を代表するキーワードだ。

386世代に反発

 「50代の男性による、50代の男性のための新聞を作って、読者から見放されている」。昨年9月、革新系紙ハンギョレの若手記者31人が決起した。文政権に批判的なウェブ版の記者コラムが上層部の判断で削除されたことに抗議し、編集局長らの退陣を求めた。

 コラムがやり玉に挙げたのは、文氏が法相候補に指名した側近の〓国(チョグク)氏(55)に浮上した娘の不正入学などの疑惑。若手記者らは〓氏らの世代を「進歩(革新)既得権」と呼び、さらに文政権寄りの自社上層部批判にまで踏み込んだ。

 60年代に生まれ、80年代の民主化運動時代に大学生だった〓氏らの世代は、30代となった90年代に「386世代」と注目され、以後の社会に強い影響力を持った。「正義」「公正」を掲げてきた386世代の代表である〓氏の疑惑は若者たちに裏切りと映り、失望と怒りは大きかった。

 韓国で昨年、社会学者の著書が注目を集めた。描き出したのは「不平等の世代」。労働組合などにより安定した立場を守られる386世代と、そのあおりで就職難にあえぐ若者や女性-。かつて軍事独裁政権と闘った世代が新たな既得権層として格差を生む皮肉な構図が浮かび上がっている。

※〓は全て「十」の下に「田」、下に「日」

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