対馬の発信 今日も 藤崎真二

西日本新聞 オピニオン面 藤崎 真二

 「対馬市のホームページによると3月31日現在、対馬の人口は3万人を割った。総人口は29976人で前月に比べて295人が減った。小さい島で人口が1カ月で300人近く減ったことは大変ショックだ」。こうブログに書き込んだのは長崎県・対馬でゲストハウスを経営する崔龍五(チェヨンオ)さん(51)だ。

 海、山、森が近く自然豊かな対馬が気に入り、15年ほど前から韓国・釜山市から家族で訪れるようになった。「好きなことをしたい」と地元新聞社を退職、貯金をつぎ込んで対馬市上県(かみあがた)町の県職員寮だった施設を購入し改装、簡易宿泊所を2014年に開業した。その後、対馬北部の比田勝港から歩いて3分の場所に移転し「みどりゲストハウス」を営んでいる。施設名には対馬の豊かな緑を重ねた。

 国境の島も新型コロナウイルス感染拡大の影響をもろに受けている。日韓関係の悪化で19年夏以降、韓国人客が9割減少し、さらに現在のコロナ禍で民宿や飲食店、レンタカー店の休業も相次ぐ。

 JR九州高速船は釜山-博多間のうち比田勝に寄港する便を3月6日から運休している。釜山、福岡と対馬をつなぐ高速船が一定期間なくなっているわけだ。「観光業は水産業とともに対馬を支える二つの柱。しかし、近年は主力のイカなど水揚げが減少し、水産業は厳しい。これで観光業が決定的ダメージを受けては…」と崔さんは嘆く。

 県と対馬市は国の離島振興策も活用し、対馬への誘客事業に力を入れていたところだった。例えば福岡-対馬の航空便なら往復2万1千円を補助し、好きな用途に使える5千円分のクーポン券も提供する。思い切った策だ。旅行会社によると3月は約700人が利用して好調だったが、今月7日の非常事態宣言である。事業は一時停止となった。

 「歴史と自然を電動自転車で体験できるコースを準備しました。蒙古襲来の伝説が残る神社、日露戦争海戦に関わる上陸地や慰霊碑、第2次大戦時の豊(とよ)砲台跡などを、海沿いの美しい風景に癒やされながら巡ります。韓国展望所では釜山を見られるかも」。日韓両国に詳しいオーナーが歴史や見どころを紹介します、と結んだブログが切ない。

 いまゲストハウスの駐輪場には緑と赤のレンタル電動自転車50台がずらっと並んだままだ。大型連休の予約はほとんどキャンセルになったという。崔さんは今日も草花や風景の写真をネットに上げて情報発信を続ける。大好きな対馬の自然を多くの観光客が満喫できる日が必ず来る、と信じながら。 (論説委員)

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