「天の声」より「民の声」 井上裕之

西日本新聞 オピニオン面 井上 裕之

 最近はテレビカメラに追われっ放し。ニュース番組に登場する回数は安倍晋三首相より多いかもしれない。

 小池百合子東京都知事。首都で急拡大した新型コロナウイルス感染の抑止に奔走する。露出は多くて当然だが、ここにきて、存在感が再び増しているようにも見える。

 「知事は代表取締役社長かと思っていたら、天の声がいろいろ聞こえてきて、中間管理職になったような感じ」

 先日の記者会見では、こう言ってのけた。首相の緊急事態宣言を受け、都は幅広い業種に休業要請の網をかけようとした。それに待ったをかけた政府へのいら立ちと、国政でも活躍した経験を持つ小池氏の自負がにじんでいた。

 かつては党を転々とし「政界渡り鳥」と呼ばれた。都知事転身後は自民党に対抗する新党結成に動いて挫折した。

 他方、国政では「クールビズ」(夏場の軽装)、都政では「時差ビズ」(満員電車解消)を発案するなど元来、アイデアと発信力が持ち味だ。今回も国と協調しつつ、都独自に休業への協力金を支払う施策を打ち出してみせた。

 そんな小池氏をことさら持ち上げるつもりはない。都の独自策は豊かな財政基盤があってのこと。その効果も現段階では見通せない。ただ、非常時こそリーダーの資質や力量が問われる。それは小池氏に限らず、全国の自治体首長が覚悟すべきことだろう。

 緊急事態宣言後、愛知の知事は急に対象地域に加えてほしいと言い出した。首都圏では休業要請に消極的だった神奈川、千葉などの知事が一転、東京に追随した。苦悩もあったろうが、これらの背景には状況把握や危機意識の甘さもあったのではないか。

 住民の命を守ることは首長の最大の職責だ。国任せではなく、自治体も感染対策や生活支援に知恵を絞る。財源が必要なら、とことん国と渡り合う。近隣自治体との連携施策や医療支援網の構築も速やかに進める-。そういった動きが求められる局面である。

 感染は大都市部から地方に波及、拡大する恐れがある。そうなってからでは手遅れになりかねない。

 首長に待ち受けるのは1票の審判だ。それもコロナ禍が続けば、街頭演説や集会はご法度の世界。選挙の時だけ言葉巧みに支持を訴える戦術は忌避される流れとなろう。

 有権者は今、目を凝らしている。リーダーがどれだけ真剣に地域の姿を見据え、危機の回避に取り組んでいるか。「天(首相)の声」より、恐れるべきは「民の声」。これもまた、言わずもがなである。 (特別論説委員)

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