黒人の魂、憂鬱を晴らすビート 日暮泰文さん「ブルース百歌一望」

西日本新聞 吉田 昭一郎

 うめいて、うなって、叫んでは憂鬱(ゆううつ)を吹き飛ばす。時には喜びや希望も乗せて励ます魂の歌だ。米国深南部で発祥した黒人音楽、ブルースの100曲を選び、その歌手と歌の誕生物語を紹介する「ブルース百歌一望」が刊行された。一曲一曲の話を読んで、歌に浸ってみればビートに乗って奥深い世界が広がる。

深く聴くための足がかりに

 執筆者は、国内の代表的な黒人音楽レーベル「Pヴァイン」の創設者で、黒人音楽の発掘、紹介を続けてきたブルース研究の草分け、日暮泰文(ひぐらし・やすふみ)さん。「ブルースの魅力を語ると同時に、それぞれの時代背景、白人社会など米国主流との関係にも触れて、ブルースを深く聴くための足がかりを提供しようと試みた」と話す。

テキサス・アレグザンダー「Section Gang Blues」収録盤

 

 テキサス・アレグザンダー「Section Gang Blues」(1927年)は最初期のブルースだ。黒人奴隷たちが綿花畑や工事現場などで声を出し合いつらさをしのいだ労働歌で、ブルースの源流とされる「フィールド・ハラー」に近い。

 〈オー、キャプテン、キャプテン、どうしたんだい / 斧(おの)を持ってるぐれえなら、噛(か)みたばこ、めぐんでくれんかな〉。鉄道工事現場でふらふらになって働きつつ、現場監督の制圧を軽口で混ぜ返す。うめき声か、うなり声か、〈ムーーン ン~ン~ン〉という野太い声が入ってくる。

 〈ムーーン ン~ン~ン〉と3度、うめき声を繰り返して始まるのが、同じくアレグザンダーの「Levee Camp Moan」(1927年)。〈殺人の罪を着せられた / 人を傷つけたことなんてないのに〉と歌う。南北戦争後、奴隷解放されたはずが、本当の自由はなく人種差別がひどかった。故なき拘束もあった。労働現場では白人監督の黒人労働者殺しも横行した。

 腹の底から響いてくるようなうなり声には「無念の思い」が宿り、ブルースの出自を示唆するものがあるという。日暮さんは「とりとめもなく暗い」彼の歌を聴くと、「ブルースの深奥に引きずりこまれる思い」がするのだという。

 逆境にあって心が荒れたり疲れたりしたときほど、響くかもしれない。暗さで暗さをしのぐ、もう一つの癒やし系といったディープな世界を感じる。

PR

文化 アクセスランキング

PR

注目のテーマ