従業員感染、公表悩む企業 経路特定「隠せば不信感」 家族へ中傷も

西日本新聞 一面 山下 真

 新型コロナウイルスに従業員が感染したことが確認された際、自治体が勤務先の公表を控えても自主的に名乗り出る企業が相次いでいる。感染防止のため正しい情報を伝える狙いだが、公表後に誹謗(ひぼう)中傷を受けたケースもある。識者は「感染拡大を防ぎつつ、患者のプライバシーや企業の利益をどう守るのか、判断は難しい」と指摘する。

 佐賀市の「ホテルマリターレ創世佐賀」で3月、アルバイトの男子大学生が新型コロナウイルスに感染したことが確認された。佐賀県は大学生の行動歴を発表したものの、アルバイト先は「不特定多数の人と接触しておらず、ウイルスまん延の恐れはない」として伏せたままだった。

 ホテル幹部は確認翌日に対策会議を開き、アルバイト先であることをホームページで公開。会員制交流サイト(SNS)での誤った情報の拡散を防ぎ、客に事実関係を正しく伝えるための判断だったという。

 公表後、ホテルは宴会や結婚式を予約している人に連絡し、日程延期などの対応に当たった。一部で「レストランの利用は気が引ける」などの声があったが、目立った批判や混乱はなかった。佐藤靖昭総支配人は「ネガティブ情報を隠し、後で発覚すれば、不信感をもたれる。正直に公表したことで逆に励ましの声をもらった」と振り返る。

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 タクシー大手の「第一交通産業」(北九州市)は3月、グループ会社の男性運転手の感染を公表。直後から、事務所や配車室に「営業をやめろ」「(感染したら)責任を取れ」などと非難する電話が数十件寄せられた。

 その後、運転手が所属する営業所ではタクシーや建物を消毒した。その様子が報道されると、作業に当たった従業員の子どもが通う幼稚園から「しばらく登園を控えてほしい」と求められたという。

 同社の担当者は「利用客の不安を解消し、感染拡大を避けるため、公表そのものは正しかった。ただ、感染していない従業員の家族まで偏見にさらされてしまうとは…」と漏らす。

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 企業側に公表を促す自治体もある。千葉市は17日、施設名を公表した事業者に協力金100万円を支払う「クラスター防止協力金制度」を創設すると発表した。風評被害や集客減を恐れ、公表に応じない企業が少なくないことが背景にあるという。市担当者は「患者の感染経路を追い掛けるため、事業者名は重要な情報。できるだけ公表への協力を求めたい」としている。

 大羽宏一・大分大名誉教授(リスクマネジメント学)は、企業が公表を判断する際、(1)感染経路を特定する公益性(2)従業員のプライバシー保護(3)風評被害による企業のイメージ低下-の相反する3点を考える必要があると指摘。「感染拡大で社会情勢が変化する中、企業は難しい判断を迫られている。業種によっても判断基準が異なる。企業任せにせず、社会全体で議論して考えることが必要だ」と語った。 (山下真)

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