あの映画その後

「間違った道、刑事裁判で直す」福島原発告訴団の武藤さん問い続ける (3ページ目)

西日本新聞 吉田 昭一郎

「不誠実」な安全キャンペーン

 国などの「不誠実」とはどんなことか。事故当初、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報を隠し、多くの人たちを安全で適切な避難方向へ導かず無用な被ばくをさせた。

 大学の専門家を「放射線健康リスク管理アドバイザー」として被災各地に派遣し、安全キャンペーンを展開。一般公衆被ばく限度は法令で年1ミリシーベルトと定めているのに、「年に100ミリシーベルト被ばくしても心配ない」などと説いて回らせた。

 「福島市や郡山市、二本松市などでは、キャンペーンを信じた保護者たちが事故1カ月後には自主避難先から子どもを連れて戻り、入学させたり、通学させたりしてしまった。国は緊急時の暫定値として年20ミリシーベルトという目安を持ち出し、学校では(事故前なら問題となる放射線量下であっても)風で砂ぼこりが舞うような屋外で、子どもたちに運動させたんですね」

 「想定外の津波だった」と事故の責任を認めない東電には、責任企業として誠実に賠償する姿勢が感じられない。国は、国民の生命、健康を守ることを最優先にすべき使命を見失っている、ということだ。

責任をはっきりさせて、尊厳を取り戻す

 福島原発告訴団の呼び掛けで集まった県内の告訴人は1324人。告訴後、全国各地を回り、最終的な告訴・告発人は計1万4716人に達した。

 「告訴を通じて踏みつけにされ台無しにされた人間の尊厳を取り戻したいと思いました。私たちの世代はこんなにものすごい量の核のごみをこの世に残し、若い世代や子どもたちに押しつけている。せめて刑事裁判で原発事故の原因と責任の所在をはっきりさせて、間違った道を直したい。それなしには被害者の完全救済はなく、本当の意味で福島の復興はあり得ない。同じような事故がまた起きかねません」。その思いは変わらない。

 脱原発を訴える。「人の被ばくが前提の発電方法だから反対です。ウラン鉱石の採掘段階から被ばくは免れず、運転に必要な定期点検は現場の人たちが被ばくする。いったん事故が起きれば、家を失い、生業(なりわい)を失い、地域を失い、甚大な被害を及ぼす。使用済み燃料の捨て場も決まらない。さらに、再処理もできず、核燃料サイクルは破綻している。経済優先で原発再稼働されるたびに、福島でこんなにたくさん放射能を浴びて被ばくしているのにそれが教訓に生かされないことを悲しく感じます」(吉田昭一郎)

 ◆福島第1原発事故を巡る刑事裁判 福島原発告訴団は2012年6月、国や東電などの33人を福島地検に告訴。東京地検が13年9月に不起訴処分とした。同地検は検察審査会の議決を受けて再捜査したが、再び不起訴。検察審査会は15年7月、2度目の議決をし東電旧経営陣3人の強制起訴が決定。17年6月に東京地裁で初公判、19年9月に同地裁は全員無罪の判決を出した。検察官役の指定弁護士は「判決をこのまま確定させるのは著しく正義に反する」として控訴した。

 起訴内容は、東電旧経営陣3人は予見できたのに大津波対策を怠って原発事故が発生。福島県大熊町の双葉病院の入院患者ら44人に避難を強い長時間の移動によって死亡させたなどとして、業務上過失致死傷罪に問うている。

 ◆短編映画「東電刑事裁判 不当判決」 福島原発刑事訴訟支援団は、短編映画「東電刑事裁判 不当判決」(ユーチューブで無料公開)を製作。水素爆発などのたびに放射線量が急上昇し避難支援の自衛隊の動きを止めて、全員の避難終了までに4日間かかったという双葉病院の入院患者らの避難経過や、判決の問題点を伝えている。

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