医ケア児や親が感染したら…“命綱”も断り、神経とがらす日々

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 たんの吸引や人工呼吸器を使うなど医療的なケア(医ケア)が必要な子どもを自宅で介護する家族も、新型コロナウイルスの感染拡大に不安を募らせている。本人が感染すれば重症化する懸念は拭えない。親が感染すると原則離れ離れとなり、家族以外が見守る公的サービスは不十分なため、生活の維持も見通せない。国は事前にかかりつけの病院などに相談するよう求めているものの、「万が一」の対応は容易ではない。

 「感染対策のストレスで、神経をすり減らしています」。福岡市内のマンションで、重い障害のある娘(15)と家族で暮らす会社員の女性(51)は吐露した。

 ▼持ち物すべて消毒

 娘は寝たきりで、胃ろうからの栄養注入やたん吸引などの医ケアが必要。糖尿病など複数の基礎疾患もあり、新型コロナに感染すれば「命にかかわりかねない」。まずは周りが感染しないことが大前提だが、女性も夫も、テレワークが難しい職場で共働き。娘は普段から、日中は近くのマンションに住む義父母に預け、見てもらっている。

 普段から欠かさない手洗いやうがいに加え、今は帰宅時は玄関で着替え、携帯電話などの持ち物、日々の買い物はすべてアルコール消毒。週4回、約1時間ずつ利用してきた訪問看護などの在宅サービスもすべて断った。「娘の微妙な体調の変化を日々チェックしてもらい、適切なアドバイスをくれる“命綱”なのですが。極力、人との接触を避けた方がいいと考えて」

 毎朝、娘を大きな車いすに乗せ、義父母宅に連れて行くときはエレベーターを使う。ただ他の住人が乗り込んでくると「申し訳ない」と思いつつ、一旦降りるようになった。こうした「ヒリヒリした毎日」は、いつまで続くのか。

 ▼防護眼鏡など持参

 医ケアは治療ではなく、安定した呼吸や食事など、命や日常生活を維持するのに必要な医療行為。在宅で療養する子どもたちは、保護者による24時間態勢の看護、介護が欠かせない。

 親が新型コロナに感染すれば原則、保健所を通じて感染症指定病院に入院する。子どもたちは、他に介助できる家族が身近にいなければ、訪問看護師のほか、医ケアに対応できるヘルパーによる居宅介護など、訪問系サービスに頼ることになる。基本的に濃厚接触者となり、短期入所など通所サービスの利用は困難になるからだ。厚生労働省は今月、医ケア児者向けの訪問系サービスを、普段より多い時間の利用も可能とするため「柔軟に対応」するよう、自治体側に通知した。

 ただ、特に児童は普段から容態が変わりやすく、医療職でも、その子の状態を見極めた最適なケアは難しい。医ケア児に対応できる訪看やヘルパーの数も、そもそも十分ではない。

 訪看や居宅介護など障害者福祉サービス事業を手掛ける福岡市のある会社では、看護師が訪問先に、自身の目を防護する眼鏡やガウンなども持参するなど、予防策を徹底。管理者は「看護師自身が感染し、無症状のまま気づかず、ほかの利用者に移さないことが第一」と口元を引き締める。

 濃厚接触者となった子どもの自宅への訪問も「訪問時間をその日の一番最後にし、他の利用者に接触しないようにするなど工夫すれば、対応は可能」とみる。一方で「こうした利用者が増えれば、サービス継続のハードルは高くなる」とマンパワーには懸念も。「みんなで感染に気をつけ、何とか乗り切っていければ」

 ▼付き添いどうする

 医ケア児者本人が感染した場合も、感染症指定病院への入院が原則。しかし入院可能な病床の不足が現実味を帯びており、九州内の複数の病院関係者によると「各地の小児科でも、かかりつけの患者の受け入れが可能かどうか水面下で検討が始まっている」という。

 病院側は普段から事実上、医ケア児者が入院する際は親が付き添い、日常的なケアに対応するよう求めることが多い。付き添いなしに受け入れが可能か、付き添いを求めるにしても「親自身が濃厚接触者となるため、病室を出られなくなる」(福岡県の病院関係者)など、課題も少なくない。

 もちろん新型コロナの患者を受け入れれば、院内感染のリスクを抱える。人手を取られ、結果的に救急患者だけでなく、医ケア児者が定期的に病院で受ける必要がある治療や手術が滞る可能性も否定できない。

 「1病棟をコロナ患者の専用病棟とし、子どもが陽性なら主な介護者である親も含めての入院を検討する方向で調整している」という熊本県の病院関係者は「普段から、万が一を想定した預かりや入院のあり方を考えていないと難しいのでは」と指摘。医療者や親、福祉関係者を含めた日常的な話し合いや「備え」の大切さを強調している。

 (編集委員・三宅大介)

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