タイの起業家「八方ふさがり」人材紹介最大手、コロナ直撃で求人約3割

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 タイで人材紹介会社を起業して26年。福岡市出身の小田原靖さん(51)は数多くの試練を経て会社を国内最大手に育て上げた。だが営々と積み上げてきた経験と自信は今や大きく揺らぐ。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、日本と海外、人と人の交流という経営哲学を根本から見直す必要に迫られているからだ。

 小田原さんが1994年に立ち上げた会社「パーソネルコンサルタント」の本社は首都バンコク中心部のビルに入居する。広々としたフロアでは女性社員たちが机上の端末画面に向かって話していた。約11万人が登録するタイ人求職者とのオンライン面談だ。コロナ禍を受けて3月下旬に始めた。感染を恐れて面談を嫌う求職者が多いためだ。

 だが小田原さんの思いは複雑だ。起業以来、求職者との事前の直接面談を最大の強みとしてきた。膝を突き合わせ、求人企業との相性や適性を丁寧に見極める。それが企業側の信頼につながり、日系企業の顧客は約9千社にまで増えた。面談をオンラインに切り替えたのは渋々だった。

 それでも肝心の企業による最終面接までほとんどたどり着かない。コロナ不況に加え、感染を恐れて面接そのものを嫌う企業が相次ぎ、求人は通常の約3割まで激減。1日約30件あった企業面接は数件になった。

 タイ政府は3月26日、全土に非常事態を宣言。商業施設や飲食店、カフェなどの原則休業を命じた。だが人材紹介業は命令の対象外で、売り上げ急減に公的補償はない。月数十万円の家賃減免も貸主に断られた。会社は貸しオフィス事業も営むが、入居予定の10社が延期か取り消し。ミャンマーでも事業を展開するが、苦境は同様だ。

 97年のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショック、11年の大洪水。試練は何度もあったが、業種や地域で影響に濃淡があり、カバーできた。ところが感染症には例外がない。初めての「八方ふさがり」だ。「直接面談にこだわり、会社の立地も来訪の利便を重視して一等地を選んだ。それらが本当に『強み』だったのか。自問している」

 コロナ禍の直前まで東南アジアには日本企業が続々と進出していた。小田原さんは昨年、タイで学んだ工学分野の高度人材を日本に送り出す事業も開始。今月には海外を本拠とする日本人起業家の最大組織「WAOJE(ワオージェ)」の代表理事に就任した。海外に根を張り、日本との橋渡しを担う先駆けとしてさらに忙しくなるはずだった。

 「日本で今後、海外進出を控えたり、外国人材の受け入れをためらったりする傾向が強まるかもしれない」。自らに湧き起こるそんな懸念を振り払うように語った。「面談や在宅勤務などオンラインでもやれることは多いと分かった。新しい商機は絶対に見つかる」 (バンコク川合秀紀)

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