【DC街角ストーリー】常識で測れない民意

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

 新型コロナウイルスの治療法として殺菌剤の投与を「面白い方法と思う」と、トランプ米大統領が記者会見で提案した。米国では、ウイルスが日光を浴びると弱体化するとの研究成果を踏まえ、体内に管を入れて光を照射する治療法の研究が始まったそうだ。とはいえ、殺菌剤の注入が命に関わるのはいわば常識で、提案はあまりに荒唐無稽だ。

 トランプ氏はよく「科学に無知」などと批判される。つい最近も会見で「ウイルスは秋に消えるかも」と発言し、直後に政府対策チームの医師に目の前で否定された。一連の発言は「科学軽視」の典型として野党民主党などが格好の攻撃材料とするだろう。

 殺菌剤発言の翌日、前回大統領選でトランプ氏に投票したという50代の女性にビデオ通話で取材した。彼女は「彼の言うことは額面通りに受け止めないようにしている」と意に介さなかった。トランプ氏はしばしば直感的な発言で混乱を招き、批判されると発言そのものがなかったかのように振る舞うことがあり、支持者も真意を測りかねるからだという。彼女にとっては今回もその一例にすぎない。

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 だが、トランプ氏の発言をうのみにする人は驚くほど多い。最近、感染拡大阻止のための外出制限や経済活動の規制に抗議するデモがワシントン周辺でも相次ぐ。取材すると、デモ参加者の多くは経済活動の早期再開が可能な根拠として「抗マラリア薬があるから」と口をそろえた。

 この薬は新型コロナに有効な可能性があるとしてトランプ氏が使用を勧めている。一方で深刻な副作用が報告されて死亡例もあり、安全性が確認されていない。だが、デモ参加者に副作用への懸念を尋ねても「大統領が効果があるかもしれないと言っている」と取り付く島もなかった。

 トランプ氏支持者には、科学も含めた既存の常識に強い不信感を抱く人が少なくない。「トランプ氏は指導者として神に選ばれた存在だと信じている」と礼賛する60代の支持者は「求めているのは閉塞(へいそく)した社会を突き破る型破りな政治であって、常識的、模範的な言動には期待していない」と言ってはばからない。

 さすがに殺菌剤発言を信じる人はいないと思いたい。だが、メディアが今回の発言をいくら問題視しても、支持者たちはそもそも、そんな報道には目もくれない。

 コロナ対応の初動の遅れも批判されるトランプ氏についてビデオ通話で取材した女性はこう言った。「愚か者扱いするのは簡単だが、私の知る限り支持者たちの思いは簡単には揺るがない」。大統領はこうあるべしという常識にとらわれて民意を見誤るな、という助言と受け止めた。 (ワシントン田中伸幸)

 =随時掲載

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