全身消毒、韓国で体験 前田絵

 新型コロナウイルス対策の影響で人混みが消えた東京を歩いていると、2カ月前の韓国生活を追体験している気分になる。駐在先の釜山市から4月2日に帰国し、2週間の自宅待機を経て、東京支社で仕事に復帰した。情報を母国語で入手できるようになり、ずいぶん楽になったが、釜山で感じていた不思議な安心感はどこかへ消えてしまった。

 韓国では2月に南東部の大邱(テグ)市にある新興宗教団体の教会で爆発的な集団感染が発生。約90キロ離れた釜山市でも同月21日に最初の感染者が確認され、緊張が高まった。

 派遣先の釜山日報では、本社ビルの立ち入りにマスク着用と検温が不可欠となった。エレベーター前に消毒液の噴霧機が登場し、その前に立つとセンサーが感知、自動で全身消毒できたのには驚いた。ある社員の家族が濃厚接触者になった時は、すぐに職場を消毒。社内の会合や飲み会も延期され、感染防止に対する意識の高さに感心した。

 トイレットペーパーや米、インスタント麺など、生活必需品の買い占めは起きず、入手困難になったマスクも、韓国政府が1人につき週2枚(当時)は必ず購入できるシステムを導入した。3月末には割高ながら1箱50枚入りのマスクが店頭に並び始めたが、そこに客が殺到する様子はなかった。

 特に重宝したのは、政府や自治体が「緊急速報」として携帯電話に発信するコロナ関連情報だ。感染者の移動経路、症状が出た際の連絡先、外出自粛の呼び掛けなどが次々に届く。自治体は独自支援も通知するため、外国人でも情報の取りこぼしが少ない。その一方、携帯電話の位置情報やクレジットカードの利用履歴などで感染者の移動経路を特定し、公表することからプライバシー保護が二の次になる弊害も目の当たりにした。

 感染者の早期発見・隔離を実践する韓国は、すでに60万件を超える検査を実施した。現在、1日当たりの新規感染者数は10人前後で推移しており、都市封鎖をせず感染拡大防止に成功した事例として、世界の注目を集めている。

 残念なのは、長引く日韓関係の悪化が影を落とし、両国間で十分な連携や協力ができていないことだ。日本では導入が難しいものもあるが、防疫に有効な手法があれば積極的に取り入れるべきだろう。韓国の「ドライブスルー」検査を導入し始めた自治体の柔軟さを見習いたい。

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 ▼まえだ・かい 福岡市出身。2002年入社。長崎総局や武雄支局などを経て、19年から1年間、釜山駐在。4月から東京支社報道部。

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