「精神0」寛容と忍耐、慈愛の先に 「仮設の映画館」でネット有料公開

西日本新聞 吉田 昭一郎

 高齢のため引退する精神科診療所の医師とその患者たちの別れ、認知症の症状が出始めた妻との日々、人が人を受け入れる寛容と忍耐、慈愛が人生をどれほど豊かにするか-。記録映画「精神0」(想田和弘監督)が5月2日から、インターネット上で有料公開される。新型コロナウイルス禍でミニシアター(小規模映画館)の休館が相次ぐ中、想田監督と映画配給会社「東風」(東京)が企画した「仮設の映画館」の一環だ。

生き抜く患者への敬意を込めて

 主人公は、岡山市の元診療所所長、山本昌知さん。かつて精神科病院で閉鎖病棟の開放を目指して無施錠運動に取り組んだという患者本位の精神科医で、所長を務めた診療所では地域での共生を目指して患者に向き合ってきた。

 今作は、診療所の患者たちの日常を追ったドキュメンタリー映画「精神」(2008年)の続編。患者の信頼を集める山本医師を次の機会に撮るつもりだった想田監督は引退の知らせを聞くと、18年春、すぐに撮影に入った。

 作品の前半は、山本医師の引退を「生きるか死ぬかのピンチ」(想田監督)のように感じていた患者たち一人一人に向き合う、山本医師の「別れの面談」の連なりだ。

 「山本先生が辞められたら、僕はどうしたらいいんですか」。そうまっすぐに思いを伝える患者がいれば、混乱状態で入院させられたのだろうか、屈強な看護師に両脇を抱えられ注射を打たれた「怖い体験」を振り返り、主治医が変わる不安を語り続ける患者もいる。

 山本医師はまずは全てを受け止めるのが流儀なのだろう、終わるまで話を聞いてはぼそぼそと言葉を返す。困難な病を抱えて生きづらい社会を生き抜いてきた患者の「すごさ」を敬意を込めて語り、励ます。映し出される患者の表情がぱっと輝いて、生き生きしてくる。山本医師の一言一言に、彼の医療のありようとその根本にある社会観、人生観が見えてくる。

 想田監督は言う。「何よりも、山本先生のすべての行動を基礎づけているのは慈愛であり、利他的な思いだと思う。そうした思いに基礎づけられているから、患者さんの信頼を得ることができる」

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