「精神0」寛容と忍耐、慈愛の先に 「仮設の映画館」でネット有料公開 (2ページ目)

にじむ真心、静かに受け止める

 後半は、夫婦2人暮らしの山本医師と妻芳子さんに焦点が当たる。子育てや親の世話をしつつ、夫が時に自宅に連れてきて泊まらせる患者の世話をしたり、食事会を定期開催したりするなど、山本医師を支え続けた芳子さん。今、認知症の症状が出ていて、今度は山本医師が支える番だ。

 作品で特別なことが起きるわけではない。夫婦で想田監督と会食したり、芳子さんの旧友を夫婦で訪ねたり、お墓参りをしたり。芳子さんの言動は時に的外れや空回りになるが、真心がにじんでいる。山本医師は直そうとしたり、とがめたりせずに静かに受け止める。支える側の山本医師は息が上がることもあるが、芳子さんが時に笑顔を取り戻すのが心からうれしそうだ。老いの現実とともに、人間は終生慈しみ合うことができるという喜びも感じさせる。

 夫婦が寄り添い手をつないで歩くお墓参りの場面は、印象派のミレーやゴッホが描いた農民の絵を思い出した。困難の中に明日をたぐり寄せる今の営みのかけがえなさを暗示するようにも映る。

心の平和を乱さずに生きていくヒント

 事前打ち合わせや台本なしで撮影し、ナレーションやテロップ、音楽を使わずに解釈の幅を残す想田監督の「観察映画」の第9作。今作はベルリン国際映画祭フォーラム部門で、宗派を超えたキリスト教者6人の審査員が選ぶ「エキュメニカル審査員賞」を受けた。「経済的・社会的成功により重きを置く社会の中で、人間が持つ力と愛する者へのケアの価値を描いた感動的な映画」と評された。

 想田監督は「山本先生も老いて患者さんと似たような『助けが必要な状況』になりつつある。人間すべてが逃れられない老いとその先にある死に、あの山本先生がどう向き合われるのか、関心があった」と振り返りつつ、手応えを語る。

 「山本先生と芳子さんは、患者さんたちを慈愛とリスペクトをもって助けてきたからこそ、自分たちを慈しむことができると感じた。お二人は老いを受容されている。患者さんたちが厳しい状況を受容して生きるのを支えたからこその余禄というか、ご褒美というか。私としてはそのあたりを作品の中にかなり描けたと思う。老いと死の問題に直面しつつも心の平和を乱さずに生きていく何らかのヒントがここにはある」

新型コロナ禍の中で

 新型コロナウイルスの感染拡大で全国に緊急事態宣言が出され、国民は外出自粛を求められている。

 「今、コロナでみんなが思うように外出できない。外に出ると、人に感染させないか、人から感染させられないか、心配になる。万一の時は自分が死んでしまうかもしれない、愛する人が死んでしまうかもしれない、そういうストレスの中で、心の安寧をどのように保っていけるのか。『精神0』を見てもらえれば、何か得るものがあるのではないか、と思う」。想田監督は、そうアピールした。(吉田昭一郎)

 

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