<わがたのむ君がためにと折る花はときしもわかぬものにぞありける>…

 <わがたのむ君がためにと折る花はときしもわかぬものにぞありける>。旧暦9月のころ、高貴な人に仕えていた者が、美しい梅の造花を献上してこう詠んだ、と伊勢物語に

▼私が頼りとするあなたさまのために手折る花は時など分別しないものですよ。枯れることのない花のように、あなたの栄華も永遠です-と読める

▼今、無残に手折られるのは、美しく咲き誇る花々。満開を迎えた福岡県八女市黒木町の国指定天然記念物「黒木の大藤」が刈り取られた。藤棚を彩る紫のカーテンが、はさみで次々と。痛ましく悲しい。千葉県佐倉市の公園ではチューリップ約80万本が

▼毎年、多くの人が押し寄せる花の名所。それ故に新型コロナ禍のことしは、人の密集を避けようと、せっかく咲いた花が、愛(め)でられることもなく。地域の誇りを犠牲にし、にぎわいの頼りとする観光客を拒む。地元は断腸の思いだろう。それでも住民に、遠来のあなたさまにも、病を広げまい、と

▼ネット上には「花がかわいそう」「見に行く人が悪い」との批判が。その通りだが、美しいもの、楽しいものがあれば足が向くのも人情。外出自粛で鬱々(うつうつ)とする日々ならば、なおさらか

▼あすから大型連休も本番。地域の宝を手折らずに済むよう、時を分別してほしい。ネットで世界の絶景を楽しめる時代なれば、しばし映像の「枯れない花」を愛でては。花咲く季節は、また巡り来るから。

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