「緊急事態」私権制限強化は是か 實原隆志・福岡大法学部教授

西日本新聞 社会面 久 知邦

 新型コロナウイルスの感染拡大で自粛生活が続く中で迎える憲法記念日。今あらためて、憲法の役割を考えてみたい。

 国民の生命や健康を守るために、個人の権利や権益が損なわれる事態はどうしても起きる。大事なのは、不必要な被害を生まないように国の行為を可能な限りコントロールする制度について考えることだ。本来、憲法はこうした制度を用意している。

 例えば、内閣は衆参各院からの批判や質問を受け、回答する責任を国会に対して負っている(66条)。また、事後に検証する場合、各院には国政調査権が付与されており、証人の出頭や証言、記録の提出を要求できる(62条)。

 権力の慢心や暴走を防ぐために、国会の役割は極めて重要だ。与野党問わず、全ての国会議員が憲法の範囲内で最大限努力しなければならない。果たして近年はどうだろうか。与党が国会審議に臨む姿勢は十分とは言い難く、野党の声も軽視されがちだ。

 「国民の知る権利」(21条)からすれば公文書を適切に管理し、情報公開の要求にできる限り応えることは内閣の義務。だが、安倍晋三首相への「忖度(そんたく)」による財務省の公文書改ざんや、桜を見る会での内閣府の招待者名簿廃棄といった問題が指摘されており、検証の基礎となる公文書の信頼性が揺らいでいる。

 憲法は権力を縛るための制度を備えているのに、それに沿った運営がなされていると言えるだろうか。

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 新型コロナウイルスへの対応として内閣が掲げた政策には国民の批判を受けて覆ったものも多かった。収入減少世帯への30万円給付、臨時交付金の使途…。声を上げることには大きな意味があるが、選挙権(15条)の行使の方が重要になる。選挙での意思表示は国の行為をコントロールすることにつながるからだ。

 緊急事態宣言が延長されることになり、自粛ベースから強制を伴う私権の制限を求める声も上がる。政府に大幅な権限を与え、人権保障を停止できる「緊急事態条項」を憲法に創設すべきだとの意見も国会議員にあると聞く。感染症対策のためにどうしても改憲が必要だと言うなら、国会の関与を強めるなど権力の暴走を防ぐ方向性は不可欠だろう。

 注意しておきたいのは、現行憲法下でも外出禁止などの私権制限は必要な法律を整備すれば可能だということ。その場合も「何でもあり」の状態にさせないよう気を付けなければならない。罰則などの手段が適正かどうか。どのような手続きを行政に取らせるのか。

 感染症防止という目的を超えていたずらに基本的人権の制限が広がらないように、憲法に立ち返り、憲法にのっとって検討する必要がある。

 (聞き手・久知邦)

 ◆實原隆志(じつはら・たかし) 1976年、千葉県生まれ。ドイツ・ミュンヘン大客員研究員などを経て2016年に福岡大法学部准教授、18年から現職。専門は憲法、ドイツ憲法。公権力がインターネット上で個人情報を収集することの法的問題点などについても研究する。

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