国の水俣病健康調査、手つかず「時間稼ぎだ」患者団体に不信感

西日本新聞 熊本版 村田 直隆

被験者負担重くデータ不足

 公式確認から64年たっても被害の全容解明が置き去りにされている水俣病。2009年施行の水俣病被害者救済法は、国に対し不知火海沿岸地域に居住歴がある人の健康調査を求めているが、国は「調査手法の開発中」として手つかずのまま。被験者となる認定患者の検査データが増えず、研究は思うように進んでいない。各患者団体は調査手法自体に懐疑的で「時間稼ぎだ」と不信感を募らせる。

 「客観的診断法の開発につながる成果を得ているが、具体的な開発時期を答えることは現時点で困難だ」

 4月24日、閣議後会見で健康調査の見通しについて問われた小泉進次郎環境相。答えは「ゼロ」だった。

 国が健康調査の前段として取り組む「手法開発」。その柱と位置付けるのが、脳磁計と磁気共鳴画像装置(MRI)を組み合わせた診断法だ。

 研究を担う熊本県水俣市の国立水俣病総合研究センター(国水研)によると、脳磁計は水俣病の典型症状である感覚障害の有無を検知。手首に電気刺激を与え、脳の感覚野に生じる磁場の振幅と波形の安定性で評価できることが分かってきた。MRIは、運動失調を引き起こす小脳の障害などを判断するために使うという。

 主任研究者の中村政明国水研臨床部長は「水俣病と客観的に判断できる基準をつくるには、認定患者の検査結果が少なくとも50人程度は必要」と語る。ただ、生存する認定患者約320人のうち、検査を受けた患者は10年間でわずか35人。患者療養施設を訪問するなどして協力を呼び掛けているが、高齢者が多く検査データを蓄積できずにいる。

 現在、脳磁計かMRIで異常が確認できたのは35人中25人。残る10人は医師から感覚障害などを認められたが、異常を検知できなかった。中村部長は「水俣病患者と健常者を区別する新たな指標を見つけるなどして検査の精度を上げられるが、患者のデータが少ないと適切な基準がつくれない」と理解を求める。

 これに対し各患者団体は、1人の検査に約2時間半要する上、大型の機器は持ち運びが難しく、大規模な健康調査に向かないと主張。水俣病被害者の会の中山裕二事務局長は「高齢な患者には負担が重く、患者の掘り起こしにつながるか疑わしい検査への協力を無理にお願いできない」と国側の要請を拒否。「国は不作為を認めて、今ある手法で即刻、被害の全容を解明すべきだ」と訴える。

 これまで2度の政治決着で救済対象となったのは、熊本、鹿児島両県で計約6万5千人。今も1700人以上が患者認定や救済を巡る訴訟を続けている。国が研究を始めて10年を超え、その間にも調査すべき多くの人が亡くなった。

 環境省特殊疾病対策室の松岡輝昌室長は「お待たせして申し訳ないが、調査手法確立に向けた研究は一足飛びにできるものではないことも理解してほしい」としている。 (村田直隆)

【ワードBOX】水俣病被害者救済法37条

 2009年に制定された水俣病被害者救済法37条は「政府は、不知火海沿岸に住んでいた人の健康に関する調査研究や、メチル水銀が人の健康に与える影響と高度な治療に関する調査研究を積極的かつ速やかに行い、その結果を公表する」と規定。県も協力するとした。これらの調査研究を実施するため、政府にはメチル水銀による健康影響の把握や効果的な疫学調査などの手法開発を求めた。

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