88歳「敬礼おじさん」 朝夕3時間、毎日立ち続ける理由

 東の空がうっすらと明るくなった午前5時45分、福岡県久留米市山本町の県道沿いに男性が現れた。オレンジの蛍光色の手袋をし、通る車に「敬礼」をするように手を上げる。通行者には「おはよう、今日も頑張って」と一声。「プップー」とクラクションで応える車や、にこやかに手を振り返す人もいる。地元ではなじみの光景だが、なんのために? 「敬礼おじさん」に話を聞いてみた。

 男性は下本杉一さん(88)。15年前に大腸がんを患い、約20年営んだすし店「東海道」を閉めた。それ以降、常連客らに元気な姿を見せようと、日曜祝日を除いた毎日の朝夕3時間ずつ、県道沿いの自宅の敷地内に立ち続けている。「県道は通学路にもなっていて、子どもたちの登下校を見守る意味もある」。下本さんは立ちっぱなしだが、疲れた様子もなく答えてくれた。

 最近は立っている間に車を数えるのも楽しみの一つ。台数を忘れないよう、ズボンのポケットに入れたアサガオの種を100台ごとに1粒、上着のポケットに移す。この日、朝の日課を終えた下本さんの上着のポケットには16粒入っていた。

 通勤途中に見かけるという中学教諭の女性(26)は「新型コロナウイルス騒ぎで気持ちが落ち込んでいても、敬礼おじさんを見ると元気をもらえる」と話す。

 日中は車椅子の妻の介護や庭の手入れをして過ごす下本さんは、午後も3時45分から「おかえり」などと声を掛ける。「通行人を励まそうと続けているが、いつの間にかこっちも元気をもらっとる」。敬礼おじさんのエールは続く。 (平峰麻由)

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