【グローバル化とコロナ禍】 出口治明さん 

西日本新聞 オピニオン面

◆進化する絆で危機救え

 著名な生物学者のリチャード・ドーキンスは、新型コロナウイルスについて以下の趣旨のツイートを投稿した。

 「パンデミックは一種の自然現象であり、人間ではコントロールできない(20万年ほど前に出現したホモサピエンスに対し、ウイルスは数十億年の歴史を持っている)。でも人間はお互いを思いやることができるから、人間が無力なわけでは決してない」

 コロナウイルス蔓延(まんえん)に伴い、4月7日に7都府県に緊急事態宣言が発出され、16日には全国に拡大された。物理的な人々の交流は一時的にできにくくなったが、世界との絆はインターネットを通じて、より深くなった気がする。ドーキンスのいう「お互いを思いやる気持ち」の発露だ。

 中国で働く卒業生はマスクをAPUに寄贈してくれた。大分県別府市に住む卒業生は消毒液を届けてくれた。フランスの友人は「3月18日の外出禁止令直後にSNSで『コロナウイルスとの闘いの前線で健闘する医療関係者に拍手を贈ろう』との呼びかけがなされた。『20時になったら、窓際やバルコニーに出て医療関係者に拍手しよう。最初は数人だけだろう。少しずつ運動が広がるに違いない』」とのニュースを伝えてくれた。

 この動きはスペインやイタリア、米国、タイに広がっている。また、英国の友人によると、医療ボランティア25万人を募集したところ、3日で75万人が殺到したという。

 このような情報に接すると、世界中のみんなが、それぞれの持ち場で自分に何ができるかをよく考えて懸命に生きている姿が、世界を救うのだと確信させられる。

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 物事にはダークサイドがつきものだ。例えば、近代文明の象徴のひとつである自動車ほど便利なものはないが、同時に毎年100万人規模で人間の命を奪う凶器でもある。しかし、誰も自動車を全廃しようとは言わない。同じようにグローバリゼーションの恩恵はパンデミックというダークサイドを遥(はる)かに凌駕(りょうが)している。今回、危機にあたり、世界の中央銀行は素早く連携して行動し金融市場の崩壊をかなりの程度まで食い止めた。

 ウイルスはヒトの移動により拡散するので、各国は出入国の禁止をほぼ同時に行った。日本も感染国からの入国を禁止したが、諸外国が出国を野放しにすれば羽田や成田で入国を禁止することは不可能であったろう。

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 APUは上半期の授業を100%オンラインで行う。学生の約半分は世界の92の国・地域から来ている。オンライン授業を世界に向けて行えるのは、グローバリゼーションに伴いインターネット空間が世界に向けて開かれているからだ。だから学生に「Stay home、 stay where you are(家にとどまれ、君がいる場所にとどまれ)」との指導が行える。コロナウイルスを言挙(ことあ)げして、アンチ・グローバリゼーションを言い立てるのは「木を見て森を見ない」言説の典型で、厳に慎まなければならないと考える。

 コロナウイルスに対応する中で、APUでは、子連れ出勤やテレワーク、オフィスの分散、オンライン授業などの検討・実施が進んだ。日本の他の組織でも事情は同様であろう。間違いなく、市民のITリテラシーは格段に高まった。政府は昨年4月から法改正して働き方改革に取り組んできたが、アフター・コロナウイルスの世界では、革命的な働き方の変革が生じるのではないか。ペストがルネサンスを生んだように。

 パンデミックは必ず終わる。それまでに、いかに行動すれば犠牲を最小限に留(とど)めることができるか、市民一人一人の自覚が問われている。

 【略歴】1948年、三重県生まれ。72年、京大法卒、日本生命入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任。2008年、ライフネット生命を開業。12年上場。社長、会長を歴任。18年から現職。著書に「哲学と宗教全史」など。

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