清潔文化が感染防ぐ 野中彰久

西日本新聞 オピニオン面 野中 彰久

 日本人が外国語を学ぶ際、ぶつかる壁の一つに発音がある。子音が続いたり、子音で終わったりすると日本人には難しい。

 以前タイ語を習った時は、有気音でつまずいた。タイ語のp、t、k、cには有気音と無気音がある。顔の前にティッシュペーパーをつるし、動くと有気音、動かないと無気音。練習したが、いまだにできない。

 有気音は日本語にはほとんどない。このことが、感染症の抑制に寄与しているという説がある。元国立感染症研究所感染症情報センター長で大妻女子大名誉教授の井上栄さんの説で、有気音のない日本語はしゃべる時の風圧が低く、飛沫(ひまつ)(10マイクロメートル以上の粒子)の飛距離が短いという。有気音のある英語や中国語の話者よりも日本人は、飛沫を通してウイルスを広げにくいということになる。

 これは、新型コロナウイルスにも当てはまるのか。井上さんに尋ねると、別の問題があるそうだ。インフルエンザは主に飛沫や接触によって広がるが、このウイルスは、粒子の小さなエーロゾル(5マイクロメートル以下)によっても感染する。エーロゾルは母音を出す際に声帯が震えて発生し、顔の周りに漂う。日本語は母音で終わるので、英語などよりエーロゾルが出やすいと考えられる。「日本語の歌は母音を伸ばすからエーロゾルがたくさん出る。だから、今、カラオケは危ない」と井上さんは注意を促す。

 対策は、国が呼び掛けるように「3密」(密閉、密集、密接)を避け、マスクをすること。「新しい報告によると、感染者は発症の2日前からウイルスをまき散らしている可能性がある。症状のない人もマスクをすべきだ」という。

 井上さんが先日出した著書「感染症-広がり方と防ぎ方 増補版」(中公新書)で強調したのは、日本人は生活文化に感染症を広げにくい条件が組み込まれており、世界一清潔な国民性を持つということ。室内で靴を履かない、握手をしない、箸を使う、風呂に入るなど感染を防ぐ行動様式が日本にはあるとみる。

 新型コロナでも「日本は人口当たりの死亡率が低い。清潔文化が寄与していると考えられる」。それゆえ欧米では抗体保持者が6割を超えれば終息とされるが、日本は3~4割でよいとの見方を示す。

 「大切なのは、日常生活の中でウイルスの伝播(でんぱ)を防ぐこと。清潔文化に自信を持って冷静に対処すれば、日本人はこの危機をうまく乗り切れる」。元気の出る言葉ではないか。 (くらし文化部担当部長)

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