「タレンタイム-優しい歌」 多民族のマレーシア、“越境”する恋

西日本新聞 吉田 昭一郎

つなげミニシアターの灯 「仮設の映画館」上映作紹介

 連載「つなげミニシアターの灯」では、インターネット上で新作映画などを有料で鑑賞する「仮設の映画館」の配信作を紹介している。今回は、民族・宗教が違うマレーシアの高校生男女の恋とその家族、同級生たちの交流を描いた劇映画「タレンタイム-優しい歌」(マレーシア、115分)を選んだ。監督・脚本は、マレーシアの女性で、母方の祖母が日本人だというヤスミン・アフマドさん(1958~2009)。混血の生い立ちと人生を重ねた思い入れがにじむ感動作だ。

異民族、異教徒の間の恋愛を妨げるもの

 「私は国境が嫌いです。私は人間と人間とを恣意(しい)的に分断することが嫌いです。私は、ただシンプルにヒューマニティーについての映画を作りたいのです」。こんな言葉を残したアフマド監督が作品で描き出したのは、マレーシアの多民族社会の現実とともに、その分断を乗り越えようとする少年少女の純愛であり、2人を取り巻く人々の物語だ。

 主人公は、マレー系の家族のもとで育った少女ムルー。祖母が英国人で、英国系の血が混じる。一家はイスラム教を信仰し、混血の父親は友好的な人物でおちゃめなところがある。母親は民族の違いを問題にしない自由な気風の持ち主だ。妹2人とはけんかもするが、仲は良い。

 物語は、ムルーがラブソングのピアノ弾き語りで、高校生の音楽コンクール「タレンタイム」に出場することになり、練習の日々が始まることで動きだす。

 インド系の高校生マヘシュは、ヒンズー教徒の母親と姉の3人暮らしで、聴覚・言語障害がある。学校に頼まれ、タレンタイムの練習に通うムルーをバイクで送迎する役目を任される。ムルーはマヘシュの聴覚障害に気づかず最初はぎくしゃくするが、事情を知ってすぐに謝る。送迎で顔を合わせるうち、お互いに恋心が芽ばえ、マヘシュはムルーの美声に聞きほれる。

バイクでムルー(後ろ)を送るマヘシュ©Primeworks Studios Sdn Bhd

 

 お互いに異民族であり、異教徒の2人の壁となるのは、積み重なる体験からイスラム教徒への偏見が強いマヘシュの母親だ。「あちら側に行かせたくない」と、自身の弟(マヘシュのおじ)にイスラム教の恋人と別れさせたこともある。その弟が別の女性と結婚し、祝いの宴はにぎわうが、喪中だった隣家のイスラム教徒らとトラブルになり、弟は殺されてしまう。

 ムルーとマヘシュの恋は、ある出来事からマヘシュの母親の怒りに火が付いて破局の様相を呈してくる。母親はマヘシュに殴りかかる。ムルーはなすすべもなく泣き崩れる。母親を敬うマヘシュだが、ムルーを忘れることができない。

 そんな中、傷心のムルーはタレンタイムの本番を迎えるのだが…。

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