自粛なのに…まるで「非国民」扱い 茶谷誠一・志學館大教授に聞く

西日本新聞 社会面 久 知邦

戦時の古い体質 現代もなお

 緊急事態宣言が出て以降、自粛しない人たちは「非国民」にも似た扱いを受けている。テレビは連日のように外出する人を取り上げ、営業を続けたパチンコ店には脅迫めいたことも起きた。あくまで自粛なのに、従わない者は監視対象となっているかのようだ。

 日中戦争以降、「隣組」に代表されるように、国民が互いに密告し合うことで非国民をあぶり出す仕組みがあった。そうした相互監視は、人も含めたすべての資源を国が統制できるよう定めた国家総動員法の制定(1938年)で始まったのではなく、その翌年に国民精神総動員委員会が設置され、「ぜいたく禁止」などが布告されたことが契機となった。ジャズ放送禁止やダンスホール閉鎖など、国が国民の生活や娯楽に手を付け始めたことがポイントだった。

 特高警察がまとめた特高月報には、住民の誰がどんな発言をしたかという詳細な記録が残っている。国民生活の統制が、住民が告げ口するシステムで維持されていたことがうかがえる。現在との共通点を感じざるを得ない。

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 安心して休業できる制度を作らないまま感染防止対策を自粛に委ね、PCR検査の拡充も遅々として進まず、多額の予算を計上して布マスク2枚しか配布しない…。こうした政府の対応にこそ本来、監視の目は向くべきだ。

 コロナ禍の中で行われた選挙では、国の対応を精査しようという動きは見られなかった。与野党対決となった4月の衆院静岡4区補欠選挙は、自民党候補が圧勝。意思表示の機会だったのに、投票率は過去最低の34・1%だった。

 外出自粛の影響があったのかもしれないが、重大事には政治家や官僚を無批判に信任する「御上信仰」が根強くあるのではないか。情報を与えられなかった戦時中と違うはずなのに「聖戦貫徹」のスローガンに従順に従った国民性は変わっていないように思える。

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 「731部隊」の名で知られる旧陸軍の関東軍防疫給水部。中国大陸で行った人体実験の研究は秘匿され、所属していた軍医たちは実験報告書を米国側に提供することで戦争責任を免責された。彼らは戦後も大学や国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)などで要職に就いた。

 戦後75年にわたって日本は公に戦争を総括してこなかった。ひときわ悪名高い731部隊ですら、後世の検証は私的なものにとどまる。一部の軍人らが極東国際軍事裁判で裁かれただけで、国民が戦争を一致団結して支えた理由に真正面から向き合ってこなかった。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、戦時中から日本に根差す古い体質を浮き彫りにしているように見える。現在の政府の対応や国民の反応を、近現代の日本に引きつけて見つめ直し、問題点をあぶり出す作業も必要ではないだろうか。

 (聞き手・久知邦)

 ◆茶谷誠一(ちゃだに・せいいち) 1971年、石川県生まれ。立教大講師などを経て、2018年から志學館大准教授、20年から現職。日本近現代史、特に近代天皇制や象徴天皇制について研究している。著書に「象徴天皇制の成立」など。

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