学生が描いた未来新聞 大串誠寿

西日本新聞 オピニオン面

 33年前の米国のSF小説「永劫(えいごう)」に「スレート(石板)」という高性能情報機器が登場した。持ち運びできて音楽も聴けた。しかし当時の現実のパソコンは、大きさが一抱えほどもあり、持ち運びなど夢物語。私はこの小説の荒唐無稽ぶりに鼻白んだ。人はとかく未来予測を夢想と断じ、分別くさく否定する。しかし現在、私はスマートフォンという名の、かつての「荒唐無稽」に親しんでいる。

 新型コロナウイルスに揺れるこの春、九州大芸術工学部は「未来構想デザイン」コースを新設した。実社会に向けて問題解決の未来像を提案する先進的取り組みだ。昨年、予行演習として西日本新聞社と協力し「未来新聞」を構想する課題に取り組んだ。力作の一部を紹介したい。

 「文字の滝」という作品。地下鉄の車窓に滝のように流れ落ちる文字が映し出され、ニュースを知ることができる。車内は幻想的な雰囲気に包まれる。新聞社提供の電光掲示ニュースと液晶技術を組み合わせれば実現できそうだ。

 「方言新聞」は地方の方言で記述した新聞。スマホの「西日本新聞アプリ」に搭載した人工知能(AI)による読み上げサービスと組み合わせれば訴求力向上が見込める。

 「食パン新聞」は朝食のトーストの焼き目がニュースを知らせる。レーザーによる実証試験済みだ。

 「飲(いん)、読(どく)。」は飲み物を使って「新聞」に向かわせようという試み。飲み物に含まれる物質とひも付けられた記事を、飲んだ後に情報機器で読むという。腹に収めたものならその内容を知りたくなるのが人情。そんな心理を利用する仕掛けだが、読むことへの強い動機付けになりそうだ。

 指導した尾方義人准教授(53)は「(制作期間が2カ月と短いが)もう一歩先を考えてほしい」と奮起を促す。

 私は先のSF小説の経験から、学生の発想を荒唐無稽と断じない。むしろ常識を超えた発想に期待する。ただ学問であるからには、データによる分厚い裏付けで実現への道筋を示すことが求められる。

 その点が小説とは異なる。

 新しい学問コース新設に合わせるように、新型ウイルスが登場し、社会の姿を急速に変容させている。未来を構想する学生たちに、厳しい現実も奮起を促している。

 (写真デザイン部次長)

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