コロナ禍の今、読んでほしい本 北九州の書店主・小野太郎氏が選ぶ3冊

西日本新聞 久 知邦

古典文学通じ「今」を考える

 外出自粛が求められている今こそ、古典文学を読んでほしい。人間や世界をテーマにしたものが多く、今の時代を考えることにつながる。優れた言葉に触れ、考える力も養われる。

 一度買った古典は親から子へ、子から孫へと読み継がれていく。自宅や実家、親戚の家の本棚に、古くて見向きもしなかった名作が眠っていないだろうか。

 難しく感じる人には、入り口として「手紙、栞(しおり)を添えて」(筑摩書房)をお薦めしたい。19―20世紀前半の西洋文学や日本文学を読む楽しさや喜びを、小説家の辻邦生と水村美苗が手紙を通して語り合う。「嵐が丘」や「坊っちゃん」などの古典が、人生をどれほど豊かにしてくれたかが生き生きとつづられている。

 手紙は1通が文庫本3ページ程度で読みやすく、語り口も親しみやすい。イタリアや軽井沢、在りし日の東京など手紙が書かれた場所の描写も印象的で、読んでいて心地よい。2人の手紙を通して、思わずその作品を手に取りたいという気持ちにさせてくれる。

時間は偉大な「選書家」だった

 繰り返し読まれるという点からすれば、古典の商業的な価値は低い。一方で、質より短期的な売り上げを優先させ、衰退していったのがこの半世紀の日本の出版文化ではないだろうか。

 出版社は新刊を書店に配本した時点で、売れていないのに現金を得ている。書店から返本されればその分は返金しなければならないため、新刊を作り続けることで相殺するという自転車操業で成り立っている。事実、1975年からの40年間で、1年間に売れた本の冊数は変わっていないのに、書籍の発行点数は3倍以上に増えた。こうした出版業界の構造的な問題が、本の乱造を招いている。

 他の国や民族を差別的に扱う「ヘイト本」や、日本を手放しに褒めたたえる「礼賛本」が目につくようになったのが一例だろう。珍しさもあり、不満のはけ口として受け、今や一つのジャンルとして確立されてしまった。過去の戦争への真摯(しんし)な問い掛けを経ず、他者をさげすむために本が使われるのは悲しいことだ。

 新しいもの、奇抜なものが良い本では決してない。古典は絶えず面白いと評価されてきたからこそ、古典として残っている。時間は偉大な選書家なのだ。古典を読む機会が広がれば、文化の底上げだけでなく、出版業界の健全化や活性化にもつながると考えている。

(聞き手・久知邦)

◆小野太郎氏(おの・たろう) 1984年、山口市生まれ。2013年、積文館書店に入社し、19年秋に退職。現在は北九州市若松区で妻とルリユール書店を営む。

 

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