病気と闘う娘…災害時「逃げられなければ、ともに命絶つ」 市を動かした母の手紙

西日本新聞 佐賀版 梅本 邦明

 もしも災害で娘が逃げられなければ、ともに命を絶つ気持ちです-。人工呼吸器を在宅で使用する人が災害時でも電源を確保できるように、佐賀市が発電機の購入費助成を始めて1年余り。事業化を後押ししたのは、人工呼吸器を装着して病気と闘う同市東与賀町の女児と母親が市に宛てた手紙だった。その文面は医療的ケア(医ケア)が必要な子どもの災害避難の不安と、非常用電源の必要性を切実に訴える。今年も雨の季節が近づいている。

 手紙を送ったのは塚原芽衣さん(10)と母絵美里さん(34)。芽衣さんは当時7歳だった2017年、自身の免疫が脳を攻撃する病気になった。両腕がわずかに動くだけで視力は落ち、たんの吸引や胃ろうからの栄養注入などの医ケアが必要になった。

 芽衣さんは入院治療後、18年2月に在宅に。その年の秋、台風が毎週のように猛威を振るい、絵美里さんは不安に駆られた。「災害が起きたら自分の力だけで芽衣ちゃんを守れるんだろうか」。自宅にある医療機器が浸水や停電で電源を失えば命に関わる。

 かかりつけの病院は災害時に傷病者を受け入れるため、芽衣さんを預けられない。自宅近くの避難所は電源があるとは限らない。「安心安全に避難できる場所と、電源がほしい」。絵美里さんは18年11月、ボールペンを握った。

 ≪娘は避難するにも大量の機械があるため、車に乗せるのに30分ほどかかります。災害が予測できる場合は事前に避難しておかないと娘は死にます。発電機のことを広める必要があると思いました≫

 ≪私は娘の回復を諦めていません。娘は自分で話すことも動くこともできません。もしも、災害で娘が逃げられなければ、娘とともに命を絶つ気持ちです≫

 絵美里さんは市障がい福祉課に手紙を送った。

 同課はちょうど、16年の熊本地震をきっかけに障害者の災害避難について話し合っていた。田中雅子主任(当時)は「純粋で素直な気持ちが伝わってきた。命を守るためのいろんな課題を感じた」。蘭英男課長(同)は「手紙は助成事業が始まる大きなきっかけになった」と振り返る。

 市は19年4月、障害児・者の日常生活用具の購入支援対象に発電機やバッテリーを追加した。最大20万円の助成で、利用者が原則1割を負担する。

 絵美里さんは医ケアに追われて仕事に就く余裕がない。福祉用具の購入費や複数の医療機器の電気代もかさむ。慎重に発電機を選んでいると、昨年8月の大雨で自宅の周囲が冠水し、秋の台風で一時停電。今年1月、市の助成を利用して発電機を購入し、まずは自宅で一時避難できる環境を整えた。「少数派の意見を聞き入れ、動いてくれた市に感謝している」

 安心安全な社会の実現を願い、手紙はこう結んだ。

 ≪娘に死ぬかもしれないという、あんな怖い、つらい思いはさせたくない。そのためにも幸せに安心に暮らせる世の中になってほしいし、していかないと! と強く強く思っています≫

(梅本邦明)

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