【女性スポーツ研究の議】 鯉川なつえさん

西日本新聞 オピニオン面

◆「小さな男性」超えよう

 新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が発令されてから1カ月超。私が勤務する順天堂大もキャンパスが閉鎖され、スポーツ系の学生は自宅での学習と練習に取り組んでいる。三度の食事と同様に運動が生活の一部となっているアスリートにとって、「練習しろ」とは言われても、「家にいろ」と言われることなど経験したことのない異常事態だ。心身ともにストレスが蓄積している状況であることは間違いない。

 私は指導する女子アスリートたちと、Web会議システムを使って「朝練オンライン集合」を実施している。画面であっても顔を見て話をすると、女子会のように就活やヨガにハマっている話題などが飛び出し、笑顔が弾ける。女子は会話がストレス解消につながることを実感中である。

 私のもう一つの職場で、東京都内にある順大の「女性スポーツ研究センター」も、4月からはオンラインで研究活動をしている。このセンターは、2014年に文部科学省の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業により設立された、日本で唯一の女性スポーツに特化した研究センターである。

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 そもそも男と女には、遺伝子でいう23番目の性染色体の違いにより、「生物学的性差」が存在する。また、社会が男性、女性それぞれに期待する資質・能力・行為・行動様式における差異は「社会的・文化的性差(ジェンダー)」としてあらわれる。

 例えば、男女に同じ練習を課したら、女子のけがが増える。サッカーやゴルフなどのプロスポーツでは、男女に大きな賞金格差がある。これらは、スポーツ現場が長らく男性中心の考え方で運営され、「女性は小さな男性」として扱われてきたことによる弊害ともいえる。

 そこで、順大では11年に女性がスポーツをする上での三つの研究課題を抽出した。一つめは、女性特有の身体的変化や月経などの「身体・生理的課題」。二つめは、周囲の影響でスポーツ活動が制約されたり、指導者からのハラスメント行為を受けやすかったりする「心理・社会的課題」。三つめは、女性は男性に比べスポーツ参加や継続がしづらいムードや、結婚や出産などのライフイベントに影響されやすい「組織・環境的な課題」である。

 この三つの課題は、あらゆる年代で同時多発的に起こり相互的に作用することから、一つの課題だけを改善しても意味がなく、すべてを理解してサポートすることが女性アスリートの可能性を引き出し、社会において女性がスポーツを楽しむ環境づくりにもつながる。

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 現在は(1)女性アスリートのコンディショニング(2)女性の体力・健康づくり(3)女性の運動パフォーマンスの遺伝・環境(4)女性のリーダーシップとスポーツ参加促進-の研究に取り組んでいる。私たちのゴールは、全ての女性がスポーツのあらゆる分野へ最大限に参加することに価値を認め、女性の人生をより豊かに発展させることにある。

 そのためには、研究のための研究をしても意味がなく、指導者、アスリート、そして多くの女性の目に見え、手が届く情報と成果を提供することが最大の目的であることは言うまでもない。研究を受けて、順大医学部付属病院では14年に全国初の「女性アスリート外来」を設立、15年には女性コーチ養成プログラム「女性コーチアカデミー」をスタートさせた。これらの詳細は次の機会にお伝えしたい。

 もうしばらくは私もオンラインでのコーチングが続く。女性の特性である「共有と共感」を大切にしながらサポートしていこう。

 【略歴】1972年、福岡市生まれ。筑紫女学園高-順天堂大卒。陸上の長距離選手として活躍。2001年、同大陸上部女子監督。同大スポーツ健康科学部准教授を経て19年から現職。14年から同大女性スポーツ研究センター副センター長。

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