恐れずとも正しく備えられる 元吉忠寛・関西大教授

 リスクというと、被害の大きさや致死率の高さなど客観的なデータによって語られがちだが、心理学的にはそう単純ではない。私たちは「コントロールできない」といった恐ろしさや、「科学的に解明されていない」といった未知性の要素が多いほど、不安を増幅して感じてしまうからだ。

 例えば、満員電車で通勤すれば新型コロナウイルスに感染するリスクがある一方で、電車を避けて車や自転車で通勤すれば交通事故に遭うリスクもある。それでも前者の方を恐ろしいと感じてしまうのは、人々の間でウイルスへの不安が増幅されているためだ。

 過度に不安を感じたとき、人によっては感染を恐れるあまり他者に攻撃的になったり、逆に「自分は感染しないだろう」と根拠なく楽観的に考えて外出したりしてしまうことがある。人間に本来備わった仕方のない反応ではあるが、行き過ぎれば感染拡大防止の妨げや差別につながりかねない。

 こうした状況に陥らず、冷静に行動するためにはどうすればいいのか。危機に直面したとき、しばしば「正しく恐れよう」という言葉を耳にするが、違和感を覚えてしまう。怖がらなくても正しい行動は取れる。必要なのは、どうすれば安心できる状況をつくれるのか、具体的な対処法を知ることだ。

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 私は災害心理学の研究をしてきて、このことを実感してきた。政府は長年、莫大(ばくだい)な研究費を使い「いかに恐ろしい災害が起きるか」というシミュレーションに力を入れてきた。一方で、命を守るための方法は「避難所に逃げよう」「食料を備蓄しよう」といった単純なものしかなく、自宅や地域での具体的な対策が進んでこなかった面がある。

 新型コロナの感染拡大防止に向けて、政府や自治体、報道機関は「最悪で何万人が死亡する」といった恐怖を強調する情報で行動を促すのではなく、身の回りでできる対策を伝えてほしい。「3密を避ける」「人との距離を2メートル空ける」などはその典型例だ。

 全ての人に自主的に正しい知識を得て行動するよう求めるのは難しい。それよりも、職場のリーダーなど、身近で信頼されている人が情報を取捨選択し、手本を示すことで周りに連鎖していくことを期待したい。

 おそらく感染者はゼロにはならないだろう。これからは、一人一人が行動に気をつけることでリスクを低く保ち、安心感を得ていくという、新しい生活様式に慣れていく必要がある。

 ただ、感染のリスクばかり考えているとストレスがたまり、健康にも悪影響が出てしまう。正しい対処法を知った上で、新型コロナのことを忘れる時間をつくっていくことも大切だ。 (聞き手・宮崎拓朗)

 ◆もとよし・ただひろ 1972年、長野県生まれ。専門は社会心理学、災害心理学。災害や食の安全、いじめなどの問題に社会がどう向き合うべきなのか、心理学的な見地から研究を続けている。

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