【DC街角ストーリー】「いい話」あふれているが

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

 澄んだ青空を、米軍機がきれいな白煙を引きながら横切っていった。今月初め、南部バージニア州にある自宅近くの上空を数秒間、ごう音とともに通過したのは海軍と空軍のアクロバット飛行隊。新型コロナウイルスの感染者に寄り添う医師や看護師たちをたたえようと企画された。

 米国では営業規制を緩和し始めた州が増えたが、首都ワシントンを含め緩和の見通しが立たない地域もある。そんな状況にいら立つ市民の中には航空ショーに勇気づけられ、称賛した人もいただろう。私も心の中で拍手を送った。

 在宅勤務が11日で2カ月になった。この間、取材で現場に出向く機会は片手で数えるほどしかなく、散歩や食料品の買い出し以外は一人でほぼ部屋に閉じこもる日々。それでも、ありがたいことに「何か不足品はないか」と気遣ってくれる米国人たちがいる。取材先探しに協力してくれる知人もいて、紹介された西部在住の家族は、突然の電話取材にもかかわらず気さくに質問に答え「またいつでも連絡を」と申し出てくれた。

 地元ニュースでは、ある父親が毎朝「おやじギャグ」を書いたボードを自宅前に掲げ、散歩中の住民を和ませるといった話題もよく流れる。互いに励まし、助け合う。そんないい話には心が救われる。

    ☆   ☆

 自称「米国のチアリーダー」のトランプ大統領も“いい話”を発信する。「経済はもう好転し始めた。来年は驚異的な年になる」。そんな調子で楽観論を繰り返す。

 トランプ氏が指針を示した後に、実際に多くの州で経済活動が再開した。規制緩和はいずれ全米に広がるだろう。死者がさらに増えそうな状況で国民を鼓舞したい気持ちは分かる。だが希望的観測をいくら吹聴されても、国民の胸は躍らない。

 トランプ氏を好きか嫌いかにかかわらず、国民はもちろん経済の再生を願っている。ただ多くは「レストランが開いても当面は行かない」と不安を抱え、経営者も「客足がすぐに戻るとは思えない」と断言する。トランプ氏の支持者でさえこんな声を漏らす。「これはギャンブルだ」

 こうした声は、11月に大統領選を控えて世論の動向に気をもむトランプ氏にも届いているはずだ。だが耳を貸すそぶりも見せずに「政権はいい仕事をしている」と言い張る。10日にはツイッターで、経済活動再開に絡めて自らの名を冠したゴルフ場が営業を再開したことを紹介し「とても素晴らしい」と誇った。

 側近も「素晴らしい成功事例だ」と政権のコロナ対応の自画自賛は同じだ。だが具体例に乏しい。「賭け」の成否も見えない。いい話を連呼されても称賛のしようがない。 (ワシントン田中伸幸)

 =随時掲載

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