「プリズン・サークル」受刑者の対話、耳を傾ければ何かが見えてくる

西日本新聞 吉田 昭一郎

つなげミニシアターの灯 「仮設の映画館」上映作紹介

 刑務所に収監中の受刑者たちがこれほど心を開いて、自身の犯罪とそこにつながっていく虐待、いじめ被害などを語る姿を見たことがない。インターネット上で新作映画などを有料で鑑賞できる「仮設の映画館」の配信作を紹介する連載「つなげミニシアターの灯」。今回は島根県浜田市の官民協働型刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」を舞台にしたドキュメンタリー映画「プリズン・サークル」(坂上香監督、136分)を取り上げる。配信は5月16日から。

受刑者たちが語る虐待、いじめの被害体験

 国内の刑務所内にドキュメンタリー撮影のカメラが入ったのは初めてだという。撮影は2014年夏から2年間。米国の先進例を参考に取り入れた、対話を基本に犯罪の原因を探り更生を促すTC(回復共同体)の教育プログラムを受ける受刑者たちを追った。

 主に登場するのは若者4人で、それぞれ罪状は「詐欺、詐欺未遂」「強盗致傷、窃盗、建造物侵入」「傷害致死」「強盗傷人、住居侵入」。

 半年から2年の期間、週12時間あるプログラムでは、心理療法士や社会福祉士の資格を持つ民間の支援員が「罪を犯した自分」に向き合ってもらうために、テーマを示し、対話を導いていく。

 多くの受刑者は、被害体験を巡る痛みや悲しみ、恥辱、怒りなど否定的な感情を押し殺し、「見ない、聞かない、感じない」というふうにして自分をごまかし、死んだふりをして生き延びてきたところがある-。支援員たちはそう指摘し、プログラム参加者に呼びかける。「それぞれが被害体験を思い出し、語ることで、(被害体験や犯罪を通じ失った)自分の欲求や感情、対人関係、自己評価を取り戻してほしい」

 受刑者たちは少しずつ心を開き、子どもの頃のつらい記憶を吐き出し始める。そして、4人とも親や学校・施設の先輩らの過酷な虐待やいじめを受けて育ってきたことが分かってくる。そのことはやはり衝撃的で、具体的に語られる被害体験は悲惨だ。

 被害・加害のバランスシートで見れば、彼らの半生は完全な被害超過ではないか。犯罪に至るには理由や背景がある。「こんだけされてるんだから、こんくらいかわいいもんだろ、みたいに思っちゃう」。そう明かす受刑者もいる。

加害者、被害者の役を演じてみるロールプレイ。涙を流す受刑者もいる©2019 Kaori Sakagami

 

刑務所内にカメラ、取材依頼から許可まで6年

 坂上監督は、初の劇場公開ドキュメンタリー映画「ライファーズ-終身刑を超えて」(2004年)で、米国の刑務所におけるTCの先進例を紹介した。当時開設準備が進んでいた島根あさひ社会復帰促進センターの関係者がその作品を見てTCに関心を持ったのがきっかけで、その教育プログラムが導入されることになったのだという。

 当初は「人間的成長と回復を目指すTCの導入は、処罰の場として規律と管理を徹底する日本の刑務所では難しい」と思っていた坂上監督だが、開設後に見学すると十分に機能している姿に驚き、即座に撮影を決めた。しかし、今度は刑務所内での撮影・取材をなかなか受け入れてもらえず、講師としてプログラムに参加して理解を求め、説得を重ねた。取材申し込みからセンター側の許可が出るまでに6年かかった。

 撮影には常に刑務官2人が立ち会い、声かけを含め同プログラム現場での取材は認められなかった。一対一のインタビューだけは認められたという。

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