「プリズン・サークル」受刑者の対話、耳を傾ければ何かが見えてくる (2ページ目)

西日本新聞 吉田 昭一郎

逮捕されるまでごまかしてきたもの

 4人のうちの1人、拓也(仮名)は詐欺と詐欺未遂罪で収監された。フランクな語り口で、悪人の雰囲気はない。

 彼は最初の頃、養護関連施設で育ったことを語るが、そのきっかけとなったであろう、子どもの頃、日常的に加えられた親の虐待について話すことができない。「虐待や育児放棄のせいで自分が悪くなったとは思いたくない」とさえ言う。

 親の虐待を詳しく語れるようになったのは、TCに来て半年以上たってからだった。仲間たちが涙ながらに本音を明かし、整理された話ではなくても涙ながらに一生懸命語り始める。その姿に動かされるように、拓也も口を開き始める。

 小学生の頃、昼間は母親は外出し、自営業でいつも家にいる父親から日常的に暴力を振るわれたこと、米のとぎ方が悪いとシンクに顔面をぶつけられ歯を折ったこと、夜に家から逃げ出して公園のベンチで寝て凍えそうになったこと-。

 そして、語りながら、逮捕されるまでごまかしてきたものが何だったか、気づくのだ。それは、虐待で深く傷つけられていた自分、虐待がどこか人ごとで感情が動いていなかった事実、それは自分を守るためのごまかしだったと。

 「被害を被害として気持ちの処理をきちんとしておかないと、自身の加害行為を加害行為として向き合うことができない」。支援員がそんなことを受刑者たちに助言する場面がある。親の虐待を被害として捉え直した拓也は、立ち直りの足がかりを得たと言えるのだろう。

描くのは、今の社会が共有する問題

 「いじめや虐待が人間に与える影響」が、坂上監督がドキュメンタリー製作で終始、関心を寄せてきたテーマだ。自身が中学時代に集団リンチに遭った体験が根っこにある。

 かつてテレビ業界にいた時、暴力の連鎖論を説いたスイスの精神分析家で、著書「魂の殺人」で知られるアリス・ミラーを取り上げたドキュメンタリーを作ったのも、そうした問題意識だった。「プリズン・サークル」もその延長線上にある作品だ。

 「『プリズン・サークル』は受刑者が主人公ですが、映画が描くのは彼らだけの世界ではありません。今の社会が共有する問題だと思います。虐待は子どもが死んで事件になると表面化するだけで、社会のあちこちに隠されている。親に半殺しの目に遭わされていた拓也への虐待も、彼が捕まってTCを受けたから分かったわけです。さらには組織でも企業でも学校でもパワーバランスの力学が働き、暴力的な関係はあちこちに転がっている」

 坂上監督は言う。

 「本音に耳を傾けることは、自分の言葉や感情、そして人生を取り戻すことにつながる。彼(受刑者)らの言葉に耳を傾けてみてください。これまで見えなかった何かが見えてくるのではないでしょうか」(吉田昭一郎)

受刑者らの子ども時代をイメージした若見ありささんの砂絵アニメーション。映画の随所に出てくる©2019 Kaori Sakagami

 

さかがみ・かおり 1965年、大阪府出身。ドキュメンタリー映画監督。映画製作・配給のNPO法人「out of frame」代表。一橋大客員准教授(デジタルメディア論)。テレビ業界で番組製作を手がけた後、米国の刑務所が舞台のドキュメンタリー「ライファーズ-終身刑を超えて」(2004年)で劇場公開映画デビューした。著書に「癒しと和解への旅」(岩波書店)などがある。雑誌「世界」(同)で、島根あさひ社会復帰促進センターのTCを紹介する連載「プリズン・サークル-囚われから自由になるためのプラクティス」を執筆中。

◆「仮設の映画館」 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休館などで全国のミニシアター(小規模映画館)が経営難に追い込まれる中、ドキュメンタリー映画「精神0」の想田和弘監督と映画配給会社「東風」(東京)が緊急対策として企画したインターネット上の映画有料配信サービス。ネット上に平時の映画経済の流れをつくって公開の場を確保するとともに、ミニシアター支援にもつなげる。

 公式サイト「仮設の映画館」では、作品ごとに公開予定の映画館一覧を載せていて、その中から一つの映画館を選んで1回24時間以内に見てもらう。料金は劇場入場料に準じ、収益は配信経費を差し引いた上で映画館と配給会社、製作者で分配する。

 配給会社は計7社が参加し、これまで「精神0」を含めて計11作品の配信が決まった。ミニシアターはKBCシネマ(福岡市)やシネマ5(大分市)、Denkikan(熊本市)など全国50館以上が参加した。上映作品、鑑賞方法など詳細は公式サイト参照を。

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