大崎事件、3者協議が14日スタート 「救急医の鑑定」評価焦点

 鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」の4度目の再審請求は、14日に弁護側、検察側、裁判所の3者協議が始まる。今回、弁護団が新証拠としたのは救急医による医学鑑定。裁判の証拠は法医学者による鑑定が一般的で、臨床医によるものは異例といえる。「被害者は事故死だったと科学的に立証できた」と弁護団が主張する新鑑定を鹿児島地裁がどう評価するかが焦点となる。

 大崎事件では、殺人などの罪で被害者の親族4人の有罪が確定したが、義姉の原口アヤ子さん(92)は一貫して無実を訴えてきた。

 事件発生は79年10月12日。被害者は自転車ごと側溝に転落した後、路上に倒れていた。連絡を受け、軽トラックで被害者を自宅に運んだ近所のIさんとTさんは「泥酔して眠り込む被害者を土間に置いて帰った」と供述。その後、アヤ子さんらが被害者を絞殺し、遺体を埋めた-とされた。

 第3次請求で再審開始を認めた2018年の福岡高裁宮崎支部決定は、新たな法医学鑑定(吉田鑑定)を基に死因を自転車事故による「出血性ショック」とし、自宅到着時には既に死亡していた可能性を指摘。「生きていた」と話した2人の供述を疑問視した。

 これに対し最高裁は昨年6月、吉田鑑定について「死因、死亡時期に関する認定に決定的な証明力があるとはいえない」とし、再審開始を取り消していた。

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 第4次請求で、死因、死亡時期に関する立証を強化するために弁護団が依頼したのが、埼玉医科大高度救命救急センター長の澤野誠医師の鑑定だ。解剖時の写真から澤野医師は、被害者の死亡は自転車事故による頸髄(けいずい)損傷、低体温、出血性ショックの複合要因があるが「主たる死因は致死率70~90%の非閉塞(へいそく)性腸管虚血(NOMI)による腸管壊死(えし)」と結論付けた。つまり被害者は(1)頸髄損傷で運動機能がまひ(2)動けないまま気温15度前後の路上に3時間近く放置され、低体温症で全身状態が悪化(3)腸に必要な血液が流れず腸管が壊死し、腸壁内の大量出血で死に至った-とされた。

 弁護団の鴨志田祐美弁護士は「頸髄損傷の患者搬送では頸部の固定が救命救急の鉄則なのに、泥酔と勘違いされ荷台に放り込まれるなどしたため呼吸停止に至ったと説明できる」と指摘。つまり「自宅に運ばれた午後9時ごろには死亡していた可能性が極めて高いことを医学的に突き止めることができた」と話す。

 澤野鑑定が正しければ、大崎事件を殺人事件とみる出発点になった「IT供述」の信用性が崩れる。2人は「被害者は千鳥足で歩いた」などと説明したが、澤野医師は「NOMIの患者が歩くことはない」。遅くとも「死亡時期が午後9時」だとすれば、アヤ子さんが「10時半ごろに泥酔した被害者を見て殺意を抱いた」などと認定した確定判決はそもそも成り立たない。

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 今後の審理では、臨床医による異例の鑑定だという点、過去の法医学鑑定でも繰り返し使われた解剖写真から初めてNOMIが「発見」された点が検察側の攻撃材料になる可能性もある。澤野医師は鑑定書で「NOMIは1958年に初めて海外で報告され、国内での論文発表は81年。事件発生の79年当時に診断(鑑定)することは不可能だった」と説明している。 (編集委員・中島邦之)

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