脳性まひの息子と…車椅子で遺跡巡り125カ所 親子15年の思い出

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 車椅子でも、遺跡巡りできた-。福岡市南区の吉田稔さん(64)が、重い障害のある息子の健一さん(31)と訪れた古墳を紹介する著書「車椅子ケンイチの福岡近郊古墳案内」(海鳥社)を自費出版した。約15年に渡って足を運んだ遺跡は、福岡県内を中心に200カ所以上。うち125カ所の古墳を、撮りためた写真とともに掲載している。稔さんは「同じような障害のある方々の励みになればうれしい」と話している。

 赤い同心円文の装飾が描かれた石室模型の前で、または石人のレプリカの横で。健一さんは輝くような笑顔で、カメラに納まった。「1500年も前に古墳を造り上げた人々の息遣いが感じられるようで興奮する私の心が、健一にも伝わっていたのかもしれません」と稔さんは言う。

 健一さんは生後、脳性まひと診断された。手足による生活動作や発語が難しく、大きな座位保持椅子(車椅子)を使う。親子が古墳巡りを始めたのは、特別支援学校(当時は養護学校)に通っていた健一さんが高等部1年のころ。稔さんは「通学バスで揺られるのが心地よいのか、車が好きだった」健一さんと休日、ドライブに出かけることが多かった。地理の教員で、学生時代に東洋史を専攻していたこともあり、次第に歴史資料館や史跡に足を向けるようになった。「遺跡や古墳は障害者には無縁のように思われますが、行ける所も結構あるんです」

      ◇

 2人で最初に訪れたのは、宮地嶽古墳(福岡県福津市)。古墳自体が、宮地嶽神社の奥の宮の一つ(不動神社)となっており、車椅子を押していくと、拝殿の建物の中に、国内最大級の横穴式石室の入り口があった。「副葬品の多くが国宝である古墳に、車椅子でも入れた」ことに感激し、一緒に行けるほかの古墳も探すことにした。

 車椅子では難しかったものの、下馬場古墳(同県久留米市)では健一さんを抱っこして石室に入り、真っ赤な円文の装飾を目の前で見たり、白いナシの花が咲く時期には妻の智子さん(67)と3人で焼ノ峠古墳(同県筑前町)を訪れたり。場所や見学方法を詳細に紹介しているブログや自治体のホームページを参考に、多くの遺跡や古墳を巡り、記念撮影した写真を保存していった。

 著書に紹介した125カ所は福岡県内だけでなく佐賀、熊本、大分県に及ぶ。場所や大きさのほか、発掘情報や調査報告書などの資料を参考に説明も加えた。

 車椅子でも見学しやすかったのは、駐車場があり段差も少なかった日拝塚古墳(同県春日市)や沖出古墳(同県嘉麻市)など。「ただし簡単に写っているようでも、車椅子をセットして後から座らせるなどした例もあり、実際には必ず付き添いの人と、下調べした上で訪ねてもらえれば」

      ◇

 健一さんが通学していたころ、稔さんは週末に古墳で撮影した写真をパソコンのソフトでA4サイズの日記にして月曜日に学校に持たせ、教員や級友に見せていた。学習発表会では、日ごろから古墳巡りをしている“ヒーロー”と紹介されたことも。智子さんは「介助されるだけの存在ではなく、自分にもできることがあって役に立てるんだと、自信がついたのかもしれません」と振り返る。

 年を重ね、健一さんは体調の変化に伴い、気道と食道を分ける手術を受けて胃ろうにするなど、医療的なケアが必要となり、最近は外出も限られている。著書は「元気に古墳を巡った大切な思い出の証し」(稔さん)でもある。障害があるなど、外に出るのが簡単ではない人は少なくなく、コロナ禍も続く。稔さんは「終息したら、この本をいろんな場所を訪ねるきっかけにしてほしい」と願う。

 A5判、144ページ、1650円。古墳巡りの参考となるウェブサイトの一覧や健一さんの闘病記も掲載している。ネット上で書名を検索し、書籍の各種販売サイトで購入が可能。問い合わせは海鳥社=092(272)0120。

(編集委員・三宅大介)

PR

くらし アクセスランキング

PR

注目のテーマ