バスの優先席にいた80代とおぼしき女性…

西日本新聞 オピニオン面

 バスの優先席にいた80代とおぼしき女性。身をかがめ、口元をハンカチで押さえている。「大丈夫ですか」。近くにいた女性が声を掛けた

▼おばあちゃんは口を覆ったまま小声で「大丈夫です。ちょっとせきが」。マスクを忘れて家を出たことをバスに乗って気付いた。せきが出そうになり、懸命にこらえていたのだ。「マスクしないでせきをしたら、周りに怒られそうで」

▼新型コロナへの用心は、今や常識。「せきエチケット」は大切だが、くしゃみや小声で話しただけでにらまれることも。おばあちゃんに怖いと思わせるほどの「圧力」になってないか。自粛が長引くにつれ、強まっているようにも

▼休業要請や外出自粛に応じない相手への行き過ぎた行動が問題になっている。「自粛警察」と呼ばれる。店への嫌がらせ、ネットでデマを拡散、県外ナンバーの車を傷つける…。不安の裏返しか、「正義」と思い込んだ鬱憤(うっぷん)晴らしか

▼おばあちゃんが周囲の目をひどく気にしたのは、戦時中の「隣組」の記憶があるのでは、と想像した。戦時体制の末端組織として思想を統制し、相互に監視、密告させて圧力をかけた

▼個人の自由や権利は全体の利益に従うべきだ-という考えの行き着く先は全体主義。戦争の遂行に都合よく使われる。「国のため」「社会のため」と声高に叫んで誰かに犠牲を強いる者がいれば、その「正義」の真偽はしっかり見定めたい。

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