新聞マンガの奮起を望む

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 職業柄、新聞をよく読む。全国紙5紙に東京新聞、西日本新聞の計7紙に目を通す。掲載されているマンガを読むのも楽しみだ。各紙の朝夕刊で計9本の連載マンガを読み比べている。

 そこでふと気がついた。新聞マンガ(毎日連載)の主人公一家の家族構成が極めて似通っている。9本のうち7本が基本的に「父、母、子ども2人(きょうだい)」の4人家族なのだ(祖父母が同居のケースもある)。しかもきょうだいは男の子と女の子が1人ずつで、男男や女女のパターンすらない。残る2本も「父、母、子」の3人家族だ。

 国勢調査(2015年)によれば、世帯構成のうち最も多いのは実は単独世帯(ひとり暮らし)で、全体の34・6%に上る。次が新聞マンガのような「夫婦と子ども世帯」の26・9%。「夫婦のみ世帯」が20・1%だ。「ひとり暮らし」と「夫婦のみ」で過半数を占める。「ひとり親と子ども世帯」も8・9%いる。

 この現状に照らせば、新聞マンガの家族構成は少々画一的過ぎはしないか。

   ◇    ◇

 優れたマンガ論で知られる明治大国際日本学部の藤本由香里教授=熊本県出身=に聞いた。

 -どうして4人家族のパターンが多いんでしょう。

 「新聞マンガの読者にも作者にも『夫婦と子ども2人が標準世帯』という思い込みがあるのでしょう。実はそれはもう多数派ではないのですが、一種の理想型と見なされているのです」

 「作者が毎日連載するのに、大人の男女、子どもの男女というそれぞれの視点でのエピソードがある方が書きやすく、読者もそのどれかに感情移入できるという側面もあります」

 -現実社会とマンガとの間にずれが出てますね。

 「それはマンガが遅れているのではなく、新聞マンガが遅れているんです。少女マンガでは1980年代半ばから、多様な家族の形を肯定的に描くのは当たり前になっていました。マンガとは本来、社会の新しい価値観を伝えるのに適したメディアなのです」

 -新聞マンガだけそれができていない、と。

 「日本人は標準に合わせたがる傾向がありますが、新聞マンガも横並びになっているのは残念。青年誌では2000年代、高齢男性が幼い子を育てる『ぱじ』(村上たかし)という名作もあったほどなのですが」

   ◇    ◇

 各紙で毎日連載のマンガ9本をさらに読み込んだ。画一的なのは主人公家庭だけではない。主人公一家を取り巻く主要登場人物に障害者はほとんど出てこない。不登校の子どもも見当たらない。LGBT(性的少数者)らしきキャラクターは皆無。ここまでくるともはや不自然である。かろうじて1本に主人公家族の友人としてひとり親家庭が登場するだけだ。

 「朝から難しいマンガを読みたくない」という読者もいるだろう。いや、深刻な話にする必要はない。ほのぼの笑える作品にマイノリティー(少数派)が普通に現れるだけで、私たちの「幻想の標準」が少しずつ変わる。藤本教授が言うように、マンガにはもともと新たな価値観に取り組む進取の気性があるはずだ。

 「書きやすさ」に安住していていいのか。長年のマンガ好きとして言いたい。新聞マンガの奮起を望む。

 (特別論説委員・永田健)

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