テレビで学習、親子で楽しむ 放送局連携の「熊本方式」に全国が注目

西日本新聞 くらし面 前田 淳 前田 英男

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため全国の多くの小中高校で休校が続く中、地元のテレビ局と連携し、身近な教員らが出演する熊本市の学習支援番組が好評だ。インターネット機器の有無など受信環境に影響されるオンライン学習より情報を広く共有でき、親子でも楽しめることが利点。手軽なメディアの活用に保護者のニーズは高く、熊本発「テレビの学校」がじわりと広がっている。

 4月下旬、熊本市の柏原敏恵さん(43)は、小学3年の長男、同1年の長女と一緒に、自宅の居間でテレビ画面と向き合った。

 今は音楽の時間。オセロ盤の横で先生が説明を始めた。「リズムに合わせて手をたたいてみましょう」。子どもたちは盤面のこまが白から黒に変わるのに合わせて手をたたく。楽しそうな表情に安心した。

 「家の勉強で子どもたちは親の言うことはあまり聞かないが、先生の指示には従う。休校が長くなり、子どもも親もストレスがたまっていただけに学びの目先を変える上で役立っている」

 熊本市は、県内を放送エリアとする民放4局、NHKと連携し、4月20日から小中学生向け学習支援番組の放送を開始。第1弾を終えて5月中旬以降、民放4局で対象を小学生に絞った第2弾に取り組んでいる。

 市教育委員会は「子どもたちの学びの継続にあらゆる手段を考えた」と説明。利用状況の調査はしていないが問い合わせは多く、担当者は「放送時間だけでなく、録画して家庭で決めた時間に見ているとの声も届く」と手応えを口にする。

 テレビ番組は、ネット上の動画配信よりハードルが高く、もちろん予算も必要になる。関係者によると、熊本市は4月上旬、番組作りをテレビ局側に相談。早い時期の放送ができるかどうかも要請に加えた。

 各局はイベント中止などで制作サイドの予定が比較的空いていた。またデジタル放送で可能な、一つのチャンネルで二つの番組を同時放送できる「サブチャンネル」などを活用すれば従来番組の変更も必要ない。結果的に全局が対応可能と回答。学年と時間帯を割り振り、市の要請から約2週間後には放送が実現した。

 「各局が出そろい、これほど短期間で対応したのは異例。地元のテレビ局として、子どもたちのために多少無理をしてでも協力したいという思いは強かった」と、テレビ熊本(TKU)の担当者は話す。

 民放4局のうち3局が採用したサブチャンネルの活用はキー局を含めて珍しいとされ、全局で同じ番組名「くまもっと まなびたいム」を掲げたことも併せて「熊本方式」として注目。北海道の民放5局が続いたほか、福岡市教委の委託を受けた同市の福岡放送(FBS)とテレビ西日本(TNC)も11日からサブチャンネル放送を始めている。

 熊本市の番組は、4月が主に前年度の学年の学び残し、5月以降は新学年の学習に対応している。スタジオでの収録には電子黒板を持ち込むなどして教室を再現。1回30~60分にまとめたテレビ学校の一日は国語や算数のほか、音楽、体操も盛り込み、楽しめるよう工夫する。各局アナウンサーや地元のタレントもゲスト出演している。

 同市では小中学校でタブレット端末などを使ったオンライン学習も既に導入した。市教委は「家庭学習にそれぞれの良さを生かしてほしい」と期待する。

 同市の柏原さんは、学校から配布された課題プリントに加え、市の番組などを子どもの日々の学習に取り込む。3月は1時間程度、4月は午前中と、段階的に学ぶ時間を増やし、今は午後2時まで、学校にいるつもりで机に向かわせたり、運動をさせたりしている。

 「飽きさせない工夫はしているが、どうしてもできないのが友達との交流。一日も早い終息と学校再開を待ちわびている」。子どもたちの胸中をそう代弁した。 (前田英男、前田淳)

「今はやれるところから」 東北大学大学院・堀田龍也教授(情報教育・メディア教育)

 学校の休業措置による義務教育段階の学びの遅れは深刻です。3月はまだ「プリント教材でつなげばいい」という感じでしたが、4月からはリーダーシップのある自治体から、できる取り組みを始めています。

 一方、オンライン授業にちゅうちょしている自治体もまだあります。できない理由として各家庭の通信環境などの差による不公平感を挙げています。しかし、そもそも学校教育は家庭ごとに公平な教育環境だったのでしょうか。平常時のように事が進まない以上、オンライン学習ができる家庭はそれをしてもらい、難しい家庭の子どもには学校のタブレット端末を貸し出すなど、できる方策を取っていくしかないと思います。

 地方のテレビ局には地域に根差した取り組みが求められ、授業放送への協力はとても評価します。インターネット配信なども併せて考えられるでしょう。これによる自治体間格差は、換言すれば地域メディアの覚悟の差であり、予算規模だけの問題でもないように思えます。東京や福岡はたくさんのテレビ局があるのに、うちの田舎は映らないから不公平だ、というような平時の不満と同様の意見は、今は置いておくべきかと思っております。

 教育委員会も学校も、いつ学校を再開するか、また子どもたちの不安をどうやって拭い去り、学びを保障するかと躍起になっています。その判断に委ねるだけではなく、今は公教育に対して、民間ができることをする貴重な機会でもあり、そういう協力をしていること自体、素晴らしいことと考えております。 (談)

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