空洞化する「白鳥決定」 中島邦之

西日本新聞 オピニオン面 中島 邦之

 「白鳥(しらとり)決定」から20日で、45年になる。判決が確定した裁判をやり直す再審にとって、大きな契機となった最高裁の判例である。

 事件は1952年1月、札幌市で発生した。公安警察官の白鳥一雄警部が射殺され、実行犯に殺害を指示したとして政党の地方幹部の有罪が確定した。その後、再審請求され75年5月20日、最高裁はこれを退ける一方、「疑わしきは被告人の利益に、という刑事裁判の鉄則は再審請求審にも適用される」と明示した。それ以降、困難だった再審の「開かずの扉」が開かれ、免田事件や財田川事件など死刑再審4事件で再審無罪が相次いで確定した。

 だが、無実の人の救済に主眼を置く白鳥決定の精神は今、空洞化している。

 主な課題は二つ。証拠開示制度の不備と、再審開始決定に対して検察官が不服申し立て(抗告)をできることだ。

 まず証拠について。一般に検察が出すのは有罪方向の証拠だけだ。裁判所も開示を勧告せず、被告に有利な証拠が隠されたまま真相が長年闇に埋もれた事件は珍しくない。

 2016年に刑事訴訟法が改正され、通常の裁判では証拠リストを開示する制度が新設されたが、再審請求審はなお蚊帳の外に置かれている。

 ただ、弁護士や民間委員の要望もあって同法の付則に「政府はこの法律の公布後、必要に応じ速やかに検討を行う」と書き込まれた。

 検察官抗告については現在、地裁や高裁が再審開始決定を出しても上級審が抗告を認めれば再審は始まらない。

 しかし、よく考えてほしい。再審開始の決定が出たということは、確定判決が揺らいだことを意味する。だとしたら、後は公開の再審公判で白黒をつけるべきではないか。

 再審開始の決定が過去3度も出た大崎事件では、度重なる検察官抗告で25年にわたり再審請求が続く。3月には、一貫して無実を訴える原口アヤ子さん(92)側が4度目の請求をした。弁護団の鴨志田祐美弁護士は「彼女の在命中の再審無罪には、検察官抗告の禁止が不可欠。その法制化と、4度目の開始決定を同時に勝ち取るしかない」と語る。

 日本の刑事司法のモデルとされるドイツでは検察官抗告が1964年に禁じられた。青山学院大の安部祥太助教によると、韓国でも検察官抗告の制限の動きが出ているという。日本では、改正法が再審のルール作りをうたっているにもかかわらず、具体的な動きは見えない。「真実発見」に背を向けたままで、司法は国民の信頼を得られるのだろうか。 (社会部編集委員)

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