検察庁法先送り 世論踏まえ一から出直せ

西日本新聞 オピニオン面

 大きな世論のうねりが採決の強行という暴走を食い止めたと言えるだろう。結果的に世論を見誤った政府と与党は謙虚に反省し、単なる先送りではなく一から出直すべきである。

 内閣や法相の判断で検察幹部の定年延長を可能にする検察庁法改正案について、政府と与党は今国会での成立を断念した。当然の判断であり、むしろ遅きに失した感は否めない。

 基本は検察官の定年を63歳から65歳に延ばす法案である。政府は国家公務員の定年を60歳から65歳へ引き上げる国家公務員法改正案とともに提出した。

 国家公務員と検察官の定年延長それ自体には野党も反対していない。問題の核心は、検察官の幹部に関してだけ不透明な特例が規定されていることだ。

 定年延長に伴い検察官にも幹部ポストを退く役職定年制を導入するが、検事総長や高検検事長ら幹部については「内閣が定める事由があると認められるとき」は特例で最長3年の勤務延長や役職定年の延長も可能にする。引き続き当該ポストにとどまることができるわけだ。

 では、その特例を認める基準は何か。国会で政府は「今はない」「これから作る」などと驚くべき答弁を繰り返した。

 時の内閣のえり好みで検察幹部の定年延長が左右され、政界も例外なく捜査の対象とする検察の独立性が損なわれるのではないか。そんな懸念や批判が巻き起こるのは当然だろう。

 インターネット上で改正案に抗議する著名人や市民の動きが一気に拡大した。日弁連は「三権分立を揺るがす」と会長声明を出した。検事総長経験者や元東京地検特捜部長といった特捜検事OBが相次ぎ反対の意見書を法務省へ提出した。異例の展開である。採決を強行するなら退席すると表明した衆院内閣委員会の自民党委員が別委員に差し替えられる一幕もあった。

 要は法案に反対するのが野党だけでなく、各界各層の広範な国民であり、世論の大勢とも言えることだ。にもかかわらず、政府と与党は継続審議とし、秋の臨時国会で成立を目指すという。ほとぼりが冷めれば-という了見だとすれば、世論を見誤る愚を繰り返すのではないか。

 安倍晋三首相は「国民の皆さまの理解なくして前に進めていくことはできない」と神妙に語った。ならば、議論を仕切り直すのが筋である。

 曖昧な特例の撤廃は当然として、検察官の定年延長のあるべき姿を立ち止まって冷静に議論してはどうか。今回の法案提出に先立ち、異例の法解釈変更によって東京高検検事長の定年を延長した前代未聞の閣議決定も撤回すべきである。

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