政府注視し声上げよう 鹿児島大准教授・渡辺弘さん

西日本新聞 社会面 久 知邦

 紆余(うよ)曲折の末に成立した補正予算は、異例の組み替えまで行われた。オンラインや郵送での手続きが始まった「一律1人10万円給付」も、政府は当初、収入が一定水準まで減った世帯への30万円給付に限定しようとしていた。

 検討されていた30万円給付の条件は、所得の減少を自ら証明し、申請すること。こうした方法を取れば、申請を出し損ない、給付から漏れる人が出るのは目に見えていた。それは自己責任で、顧みるに値しないのだろうか。

 憲法にその答えがある。憲法の一番の目的とされるのは、13条の「個人の尊重」。具体的には25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」の保障だ。

 申請主義で対応した結果、給付が行き渡らなければ、政府は憲法が求める個人の尊重を果たせないことになる。有事で難しい判断を迫られるときこそ、立ち戻るべきは憲法の理念。それに照らせば、政府は最初から一律給付を選ぶべきだったのだ。

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 地域経済に重くのしかかる営業自粛と補償を巡る問題でも、政府の対応には疑問符が付く。財産権について定めた憲法29条は、私有財産を公共の福祉のために用いるには正当な補償が必要だと定めている。感染症対策も公共の福祉のために行うのだから、生じた損失についても同様に、憲法は政府に補償を命じていると解釈すべきだ。

 それなのに、自粛要請の法的根拠となる新型コロナ特措法には補償の規定がなく、政府も損失補償はしないという姿勢は変わらない。売り上げが減少した中小企業に最大200万円、個人事業主に最大100万円を支給する持続化給付金の申請が始まったが、緊急事態宣言が解除された県でも遊興施設やスポーツ施設を中心に自粛要請が継続している。損失に対し、給付金は付け焼き刃でしかない。

 感染はいったん収束しても第2波が来ると指摘されている。そうでなくても経済的な影響は長期化するだろう。命の大切さは自明だが、生計だって同じように重要だ。今の政策では「個人の尊重」はとても実現できない。

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 憲法の2本柱は、権力を縛る「立憲主義」と、国民の意思に基づいた政治が行われる「民主主義」。立憲主義が守られているかは、私たち自身が民主主義に基づいてチェックしなければならない。

 政府が収入減少世帯に限定した30万円給付を一律10万円給付へと転換させたのは、社会の批判を浴びてのこと。国民が良識に基づいて上げる声は、決して軽くない。 (聞き手・久知邦)

 ◆わたなべ・ひろし 1968年、愛知県生まれ。活水女子大准教授などを経て2016年から鹿児島大准教授。専門は憲法学。法教育の内容や方法についても研究している。

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