諦めなければゲームは続く

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 安倍晋三政権が検察庁法改正案の今国会成立を断念した。直後に発覚した賭けマージャン問題にも驚いたが、改正案を巡る展開もまた予想外だった。

 要約すれば、この法案は検察幹部の定年を政府の独自判断で延長できるようにするもので、実現すれば検察の政治的中立性が脅かされる懸念があった。人事を握られた検察が「政権に都合の悪いことは捜査しない」組織になってしまう恐れがある、ということだ。

 ほとんどのメディアや野党がこの法案を批判する中、当初安倍政権は今国会で強引に成立させる姿勢を見せてきた。しかし、会員制交流サイト(SNS)ツイッターの一会員が「検察庁法改正案に抗議します」と投稿したのを皮切りに、歌手や俳優など有名人の投稿、さらにそれを見た一般人による同意の投稿が激増し、大きな世論を形成した。

 結果的に安倍政権は一転して見送りを表明。賭けマージャンのスキャンダルに目が行きがちだが、「1強」の安倍政権下で、世論が政権の独断専行に歯止めをかけた事実は特筆すべきであり、そこを論じたい。

   ◇    ◇

 最初に「予想外だった」と書いたが、ほとんどの現役の政治記者にとっても安倍政権の今回の「敗北」は予想外ではなかったか。

 かつて自民党のプリンスと呼ばれ、汚職事件で逮捕されて服役した後も無所属で連続当選を続けている異色の衆院議員・中村喜四郎氏は、安倍政権の性格をこう分析している。

 「つまるところ、安倍政権とは、国民に政治を諦めさせることに成功した特殊な長期政権だと言えます」

 国民の多くが「おかしい」と気付いていても、政治を避け、政治を諦めている。その結果、選挙の投票率は下がり、政権与党の組織力が当落を左右する-この構図が「安倍1強」を維持しているという趣旨だ。

 確かに、私自身も今回の検察庁法改正案に憤りつつ「どうせ政権が『数の力』で実現させてしまうんだろう」との諦観があったことは否めない。度重なる「1強」の強引な政治手法に慣らされていたのだろう。

 法案とは少し離れるが、最近の首相会見で質問する政治記者の突っ込みの甘さがしばしば指摘される。これも「どうせ何を聞いてもまともに答えない。それなら政権幹部からオフレコで本音を聞いた方が早い」という記者の諦めが先に立っているのではないか。

   ◇    ◇

 しかし、私たち政治ウオッチャーが「どうせ…」などとひねくれている一方で、有権者は諦めていなかったのだ。政権を法案成立見送りに追い込んだ無数のツイッター投稿者に、私は率直に敬意を覚える。

 「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」

 ふと、一世を風靡(ふうび)したバスケットボール漫画「スラムダンク」のせりふを思い出した。今もいろんな人が引用する名せりふである。このせりふは、主人公の所属するチームが相手に大差をつけられた時、半ば諦めた主人公に対して、監督がポーカーフェースのまま発する。「?」が付いているところがいい。「で、君はどうする?」と問われているような気がするからだ。

 政治を国民の側に取り戻す試みを諦めてはいけない。負けることも多いが、諦めなければ試合は続くのだ。 (特別論説委員・永田健)

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