被災者広がる匿名公表、ネットに萎縮? 自治体、情報拡散に苦慮

西日本新聞 社会面 御厨 尚陽

 災害時の被害者情報の公表で自治体側の判断が割れている背景として、それぞれが定めている個人情報保護条例の規定や解釈により、個別に公表する内容を判断している現状がある。近年の大規模災害では家族らの「強い意向」などを理由に挙げた匿名公表が増えており、インターネット社会の発達に伴う情報の拡散や想定外の利用への対応に苦慮し、萎縮する自治体の姿が透けて見える。

 熊本地震(2016年4月)を経験した熊本県は地震当時は全ての死者名(関連死を除く)を公表したが、18年度から公表基準策定のための議論を開始、家族らの同意を公表条件とする方針に転換した。県によると、県個人情報保護条例は保護の対象に死者を含む。同意を必要とする規定はないものの、同意を得ない実名公表は「死者や家族の名誉を傷つける恐れがある」と判断した。

 一方、福岡県は県個人情報保護条例の運用規則に「生存する者のみ保護を求めることができる」と明記しており、死者は実名で公表する。自治体ごとに対応が割れている現状について、県の担当者は「望ましくない」と認める。広域災害が発生した際に氏名公表の運用が異なると、被害状況が正確に把握できない恐れが生じる。

 インターネットの影響力に対する自治体側の不安や懸念が、近年の匿名公表の増加につながっている側面も強い。東日本を縦断した昨年10月の台風19号で、不明者を匿名公表した自治体担当者は「実名を公表した場合、ネットを通じて被害者情報が拡散することで、本人や家族が不利益を被る事態になりかねない。訴訟を起こされる恐れもある」と明かす。

 18年7月の西日本豪雨では、不明者の公表で自治体の判断が割れた。広島県は不明者を名字のみカタカナで公表。愛媛県は「誤情報の可能性があった」として公表しなかった。これに対し、岡山県は当時の不明者43人を公表。その結果、住民らから情報が寄せられ、公表から9時間後に33人の生存が確認できたという。

 新潟大の鈴木正朝教授(情報法)は「実名公表の条件に家族らの同意を挙げる自治体があるが、明文化された規定もなく、根拠が曖昧だ」と指摘する。静岡大の牛山素行教授(災害情報学)は匿名公表の問題点として(1)住民側が被災者の安否確認ができない(2)社会として後世の災害検証が難しくなる-を挙げる。「被災自治体の公表事例集を作るなど、国が積極的に関わってほしい」と求める。

 個人情報保護を巡っては1984年、福岡県春日市が全国で初めて条例を制定。その後、住民票の電算化などに伴い都道府県をはじめ各自治体が、個人情報保護法(2005年4月全面施行)より先行して条例を定めた。 (御厨尚陽)

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