必要な資質を審査するために 菊池良和(九州大病院・吃音外来医師)

西日本新聞 医療面

連載:吃音~きつおん~リアル(23)

 「僕、無理かもしれない」。Dさん(23)からの涙声の電話に、母親は驚きました。高校卒業後、昼は整骨院でアルバイトをし、夜は国家資格の柔道整復師を目指して養成校に通っていました。

 養成校での実技審査の練習で吃音(きつおん)が出て、5分の制限時間内に終えられなかったようです。「今から包帯を巻いていきます」「痛みやしびれがあったら、すぐに伝えてください」などの声掛けがうまく言えなかったのです。先生に「本番では融通が利かないぞ!」と指摘され、将来を悲観しての電話でした。

 私の本を読んでくれていた母親から、相談のメールをもらいました。初診日、Dさんはおどおどした雰囲気。症状は中等度で、確かに話すのに時間がかかりそうでした。アルバイトと通学で忙しく、頻繁には通院できません。どうにかして実技審査に合格させてあげたいと思いました。

 障害者差別解消法に基づく配慮があるかもしれないと考え、吃音への配慮と審査時間の延長を依頼する診断書を作成しました。この結果、制限時間は2分延長されました。Dさんは時間的な余裕ができ、自信を持って受験できたそうです。無事合格でした。

 養成校の先生には「おかげで吃音への配慮があることを知った」と感謝されたとのこと。「長い人生では一つの試験にすぎないかもしれないけど、僕にとってはとても自信のつく出来事でした」とDさん。

 他にも看護師や教諭、保育士など、実習や実技試験が必要な資格はあります。吃音があるというだけで「合格して働いても苦労するから」と厳しく審査されたり、諦めるよう促されたりする例もあると聞きます。吃音があることと、その仕事に必要な資質や能力は切り離して判断してほしい。その証拠に、Dさんは現在、信頼される柔道整復師として働いているのですから。

 (九州大病院医師)

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