完治困難な「多汗症」…患者の苦悩 症状の深刻さ知られず

西日本新聞 医療面 野津原 広中

 手のひらや足の裏、脇、顔、頭から多量の汗が出る「原発性局所多汗症(多汗症)」で、日常生活に支障を来し、悩んでいる人は多い。塗り薬や注射、交感神経を遮断する外科手術などの治療法はあるが、完治は難しい。患者が人目を気にせず生きていくには、社会が病気への理解を深め、受け入れることが必要だ。  

 真冬の1月。手のひらの汗はしたたるほどで、ハンカチで拭いても追い付かない。高校3年だった福岡市の男性(18)は、大学入試センター試験の会場で頭が真っ白になった。集中できず、点数は目標を大きく下回った。浪人が決まった後、初めて受診した皮膚科で多汗症と診断された。 

 緊張する場面や集団の中にいるとき、きつく叱られた際などにあふれる汗。実は幼い頃から悩んできた。「教室でプリントを回すときにぬらさないか、とか気になる。昨年の秋からは勉強も手に付かないほどになった」 

 多汗症は、現在は完治できない病気だ。厚生労働省の調査(2009年度)によると、国内の有病率は発汗部位によって異なるが3~6%。受診率は約6%と、悩んでいても治療を受けていない人も多い。 

 日本皮膚科学会は10年に診療ガイドラインを初めて作成し、15年に改訂版をまとめた。策定副委員長を務める池袋西口ふくろう皮膚科クリニック(東京)の藤本智子院長は「昔は薬がなく『ただの汗かき』と考える医師もいた。ガイドラインができ、多くの病院で治療できるようになってきた」と語る。 

 治療法は(1)塩化アルミニウムを含む塗り薬(2)電流を流した水に患部を浸すイオントフォレーシス(3)脇や手足へのボツリヌス菌毒素の注射(4)抗コリン薬の内服-などがある。(2)は家庭で施術できる機器を輸入することもできる。 

 ただ、保険診療が適用されるのは、ボツリヌス菌毒素の脇への注射と抗コリン薬の内服だけ。藤本院長は「現在治験中の塗り薬があり、来年にも保険診療で使えるようになる見通し。患者の選択肢が広がる」と期待する。 

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 外科的治療としては、発汗に関わる交感神経の一部を焼くなどする手術「胸腔(きょうくう)鏡下胸部交感神経遮断術(ETS)」がある。保険診療が適用される。 

 手のひらの汗がほぼ止まって満足する患者もいる。だが、副作用として背中や尻など別の部位から多量の汗が出る「代償性発汗」が起きてしまい、新たな悩みを抱える患者も多い。藤本院長は「交感神経は一度遮断すると元に戻せない。ETSは、他の治療法がない場合の最後の手段にすべきだ」と強調する。 

 日本胸腔鏡下交感神経遮断研究会代表幹事を務める佐田病院(福岡市)の佐田正之理事長は1999年以降、約3600人にETSを施した。「まずは皮膚科の治療をする。それでも効果を感じられず、ETSを望む人に、代償性発汗について十分説明して同意を得た上で手術している」とする。 

 同病院では、皮膚科の診療ガイドラインや経験に基づき、背骨の横を走る交感神経のT2という部位は避け、T3の一部とT4を遮断している。手術は昨年115件と減少傾向。佐田理事長は「代償性発汗の仕組みは不明な点も多く、医師の責任は重い。このため、ETSを行う医師が年々減っている」と明かす。 

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 完治が難しいにもかかわらず、症状の深刻さは知られていない。テレビで汗かきの人を冷やかすコントが放送されることもあり、患者はなかなか言い出せない。 

 患者でもある映像クリエイターの本間洸貴さん(28)=福岡市=は「多汗症のことを知ってほしい」と昨年12月、ドキュメンタリー「Voice~伝える先に見えるもの~」(27分)を完成させた。動画投稿サイトユーチューブ」で公開している。 

 日々の汗対策などを患者たちが情報交換する「オフ会」の様子、ETSの代償性発汗や体質の変化に悩む声、周囲に病気を告白して前向きに生きる姿などが描かれている。患者向けの靴下を開発した女性患者も登場する。 

 制作費は昨年4~5月にクラウドファンディングで募り、全国の患者や知人から目標を超える104万7千円が集まった。「知らない人も応援してくれてうれしかった」 

 北海道出身の本間さんは中学時代、ETSで交感神経を遮断した。手の汗は止まったが、背中や太ももの代償性発汗に悩まされている。衣類は、汗の目立たない濃い色しか選べない。会社員時代はシャワーを浴びられないことなどがつらかった。このため、自由が利くフリーで仕事をするようになった。 

 「完治しないから、患者はどこかで折り合いをつけて生きる必要がある」と本間さん。だからこそ「全国的に患者が情報交換できる場や環境をつくりたい」と、ツイッターでの情報発信やオフ会開催など、患者をつなぐ活動に力を注いでいる。

 (野津原広中)

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