私たちは心に恐怖の種を持つ【坊さんのナムい話・12】

西日本新聞 くらし面

 お釈迦(しゃか)様は35歳で悟りを開きました。その際、菩提(ぼだい)樹の下での瞑想(めいそう)を邪魔する者がいました。魔王マーラです。

 仏典によると、尊い存在が誕生することを恐れたマーラは、全力で瞑想を阻止しようとします。さまざまな誘惑に動じないお釈迦様を配下の軍勢に襲わせますが、失敗します。最後はマーラ自身が向かいましたが、お釈迦様はこれを打ち破り、仏様になったと伝えられています。

 さて、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、日本赤十字社が「ウイルスの次にやってくるもの」というアニメーションを動画サイトで公開しています。この中に、手洗いでは洗い流すことのできない「黒いもやもや」が登場します。心に潜むもやもやは、暗いニュースや間違った情報を食べながらどんどん成長していきます。そして私たちを不安にさせる言葉をささやくのです。

 それは人から人へと広まっていきます。私たちは「こんな状況になったのはあいつのせいだ」と周りを攻撃し始め、傷つけ合い、お互いが分断されていきます。すると今度は自分が責められないよう、熱があっても元気なふりをするので、誰がウイルスに感染しているか分からなくなり、さらに感染が広がっていくというお話です。

 この黒いもやもやの正体は「恐怖」です。感染への不安から生まれた恐怖は、他人への憎しみとなり、差別を生みます。そして差別が感染拡大の防止を邪魔して悪循環に陥るのです。

 お釈迦様が菩提樹の下で見た魔王は、恐怖を表しています。お釈迦様ほどの方でも、自らの命を脅かす恐怖に心を乱されたのですから、私たちにはそう簡単ではありません。恐怖は自らを守ろうとする心の働きでもあるからです。

 しかし、それぞれが心の奥に恐怖の種を持ち、私たちは恐怖に弱い、と自覚することはできます。恐怖にのまれてしまわないよう、心掛けていくことが大切なのではないでしょうか。

 思いやりの心を失った社会は、感染症に弱い社会です。どうぞ心安らかに、ウイルスの次にやってくるものに備えてください。

 日赤の動画はこちら  (永明寺住職・松崎智海 北九州市)

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